坂本真子の『音楽魂』
未唯mieさんインタビュー〈前編〉
シンガーからアーティストへの歩み
「幸せを感じていただける歌を」
Special 音楽 ライフスタイル
[ 23.03.01 ]
最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクトリーダーの坂本が、音楽の話をお届けします。
歌手の未唯mieさんが、オールタイム・ベスト「MIE to 未唯mie 1981-2023 ALL TIME BEST」を「未唯mieの日」である3月1日に出しました。4月にはピンク・レディーのテレビ番組やライブの映像をDVD6枚にまとめた「Pink Lady Chronicle TBS Special Edition」も発売される予定です。そんな未唯mieさんに、歌うことや年齢を重ねることへの思いを聞きました。インタビュー前編では、ベストアルバムと音楽について語ります。
未唯mieさんはピンク・レディーとして1976年8月にシングル「ペッパー警部」でデビュー。「S・O・S」「カルメン'77」「渚のシンドバッド」「ウォンテッド(指名手配)」「UFO」「サウスポー」など数々の大ヒット曲を世に送り出し、81年3月に解散しました。同年7月に「ブラームスはロックがお好き」でソロデビューし、84年には「NEVER」がヒット。ソロになってからの42年間に発表した作品を、所属レコード会社の壁を越えて収録したものが、今回のオールタイム・ベストです。
ベスト盤には、新曲「Hallelujah《ハレルヤ》」が収録されています。カナダのシンガー・ソングライター、レナード・コーエンが1984年に発表したアルバムに収録され、その後は大勢のミュージシャンにカバーされて歌われてきた名曲です。旧約聖書を元にした歌詞の原稿は80節まであると言われています。
「昨年、ふとしたことで耳にしまして、1回聞いただけで、心が震えて涙が出るぐらい感じるものがあったんですね。歌詞の内容も今の時代にお伝えしたい曲だと思って、最初はライブで歌えればと思ったんですけど、ちょうどその頃にオールタイム・ベストを出すことになったので、ぜひ新曲として入れたいと熱烈に思って、入れさせていただきました」
「ハレルヤ」は、旧約聖書の中で万物を創造した神とされるヤーウェの名前を「ヤ」と短縮し、「ヤ」をほめたたえる(ハレル)という意味の言葉です。
「旧約聖書に出てくる事件や苦しい歴史が書かれていて、そういうものに対して『ハレルヤ』という言葉をつなげていることがすごい曲だと思います。私の解釈としては、そういう大変な歴史をくぐってきた私たちだから、もうそろそろ人を傷つけたりせずに手を取り合って、温かい気持ちで輪を作ろうよ、という曲に聞こえるんです。ハレルヤは、ヤーウェという神様をほめたたえる言葉ですけど、私は、『あなた(YOU)』を意味する『ヤ(YA)』と、神様の『ヤ』をかけて歌いたいと思ったんです。みんなが『あなたをたたえる』と思ったら世の中が平和になるんじゃないかと。『みんなをたたえて生きようよ』という曲として歌いたいなと思っています。今回は井上鑑さんにプロデュースをお願いして、私の思いと、この楽曲の持つ力が集合したような曲に、鑑さんが仕上げてくださったと思っています」
「Hallelujah《ハレルヤ》」には、シンガー・ソングライターのさかいゆうさん、歌手の坪倉唯子さんがコーラスとして参加しました。奥行きのある重厚なコーラスを聴かせています。
「坪倉さんは、本当にふくよかな倍音の多い声をしていますので、すごく大きく支えてくれるような感じがしますし、さかいゆうさんは美しくて感動するような歌声を披露してくださっています。私からも『こんな風に歌ってもらえますか』という要望を少しお出ししたんですけど、すぐに応えてくださいました。素晴らしいボーカリストに参加していただいてうれしかったです」
オールタイム・ベスト「MIE to 未唯mie 1981-2023 ALL TIME BEST」=写真はビクターエンタテインメント提供
「自分の足で歩くと決意した第一歩」
オールタイム・ベストはCD2枚組みです。ディスク1は1981年のソロデビューから95年の作品まで、ディスク2は新曲を含め、94年以降の作品を収録しています。
「前半はピンク・レディーを解散したばかりで、レコード会社のイメージする曲や、当時のプロデューサーが考える方向性とか、作家さんの思うイメージの楽曲をいただいて私が表現していくという形で、どれだけ求められるように歌えるか、というところに重きを置いていたので、ディスク1はエンターテインメントのシンガーという感じです」
「後半は、自分がそのときどきに感じたことをやってきました。出会ったプロデューサーやミュージシャンと話して、『じゃあ、こういう曲を作ってみようか』と考えてくださって、できあがった作品がたくさんあります。私が世の中や愛する人々に伝えたい思いが、作品自体に詰まっているので、ディスク2はアーティスト的な表現方法になっていると思います」
ディスク2にある1994年のシングル「キティとダンス!」は、それまでの曲とは雰囲気の異なる、かわいい曲ですが、未唯mieさんのある強い思いが込められています。
「私は、一人で出かけることも許さないような厳しい親に育てられて、そのままピンク・レディーで大事にされて、本当に世間知らずのまま30の声を聞いた感じでした。そろそろ人として自分の足で歩まなきゃいけないと思って、シンガーとして何をするべきかを考えたのが、33歳の頃でした」
その頃、最も気にかかっていたのは母親への思いだったそうです。
「母親とは仲良しですけど、どこか心が通じ合えない。もっとわかり合えたら幸せなのに、と思っていました。当時いろいろな人に『親との関係はどうですか』と聞いたら、親子の間で傷や寂しい思いを感じていらっしゃる方がたくさんいたんです。親は子を思い、子どもは親を思って愛したいし愛されたいとお互いに思うのに、どこかすれ違っていると私は感じて、小さなときから何かつながりを持つためのお手伝いができないだろうか、親子で聴けるような音楽を作りたいと思ったんですね。『キティとダンス!』は親子で一緒に見てもらうような作品ですし、この頃は歌のお姉さんみたいなことをいろいろさせてもらって、その中の一つが『キティとダンス!』でした。自分の足で歩くと決意した、第一歩の曲です」
オールタイム・ベストには、2007年のアルバム「me ing」から7曲が収録されています。
「『me ing』は、自分でプロデュースして、どんな詞や曲にするかというコンセプトも全て自分で考えて、どの作曲家にお願いするかも決めて自分で発注して、要望を伝えてやり直してもらったこともありました。詞も自分で書けるものは書きましたし、こんなことを書いてくださいと作文を書いて、それを詞にしていただいたものもあり、私の気持ちと言葉がぴったり合っていないものは言葉を入れ替えさせてもらったこともありました。本当に私の思いがぎゅーっと詰まっているアルバムだったので、今回のベストにも入れさせていただきました」
「後半は等身大の私です」
さまざまな人たちとの出会いも、未唯mieさんの音楽活動に影響を与えました。
ハードロックバンド「X.Y.Z.→A」と共演し、2001年に発表したシングル「Nobody Knows Me (But Only Heaven)」も、その一つ。今回のオールタイム・ベストにも収録されています。
「ファンキー末吉さんのラジオにゲストで出たときに、『どんなことに興味あるの?』と聞かれて、『プログレ的な組曲みたいなものも好き』と話したら、『僕と一緒にやってみる?』と言ってくださって。それで実現したのが『X.Y.Z.→A』と共演した、このプログレの曲です。出会った人たち、仲間たちが、私がやりたいことをやらせてくれました。後半(ディスク2)は等身大の私です」
東日本大震災の後に作曲家・作詞家の故・中村泰士さんが作り、未唯mieさんが歌ってYouTubeで公開されていた鎮魂歌「おやすみなさい」も、今回のディスク2に収録されています。中村さんは、ピンク・レディーがチャンスをつかんだ「スター誕生!」の審査員でした。
「中村先生はデビュー前から私のことを知ってくださっているんですけど、『未唯mieにはこういう曲を歌わせてあげたかったんだよな』と言って、私のために作ってくれたそうです。『未唯mieに歌わせたくて作ったんだけど、歌うかい?』と言われて、『歌わせていただきます』と。東日本大震災の直後に先生も被災地に入って、いろんなお話を聞いて作った曲なので、本当にリアリティーのあるものなんです」
「震災で私に何かできることがないかと思ったとき、お弁当や冷たいものしか食べられないという話をニュースで聞いて、温かいものを食べてもらいたいと思ったんですね。ちょうどその頃、私が『らあめん花月嵐』のプロデュースをしていて全国にチェーン店があるので、一番近いお店で協力してくださいとお願いして、私は一人で被災地に入って、みなさんにラーメンを召し上がっていただいたことがあったんです。そういう実際に見たことや感じたことをこうして歌わせていただきました。その曲を今回CDに入れることができてうれしいです」
また、2003年から05年にかけて、未唯mieさんはピンク・レディーのライブツアーで全国を回りました。その最終公演でも大きな出会いがありました。
「オリジナルを演奏したミュージシャンたちに来ていただいたんですけど、終わった後、ドラムスの村上 “ポンタ” 秀一さんが『もしこれから未唯mieちゃんがライブをやりたいんだったら、俺、手伝うよ』と言ってくださったんです。『本当ですか? お願いします』ということで、翌年からポンタさんが日本屈指の一流メンバーを集めてくれて、定期的にライブを行うことになったんです。それからはエンターテインメントではなく、音と向き合う、音楽と向き合うという方向になって、今に至ります」
ピンク・レディー「成長の過程を」
4月には、DVD6枚組みBOX「Pink Lady Chronicle TBS Special Edition」が発売される予定です。ピンク・レディーがデビューした頃に出演したテレビ番組や、海外で歌った企画、日本武道館や渋谷公会堂でのライブ、日本レコード大賞の受賞シーンなど、総収録時間は8時間を超える大作です。
「覚えていないものもたくさんあって、見ていて『こんなこともしていたんだ』と懐かしかったです。デビュー当時から解散に至るまで、全部の時期の映像があるので、『この頃はまだわけがわからず頑張っていたな』とか、世界デビューしてアメリカで仕事をして帰ってきた後は『技術や能力がちょっと上がっているな』とか、いろいろなことが見えました。成長の過程を見るのも面白いと思います」
全盛期は超多忙だったことで知られるピンク・レディーですが、「歌を歌うという仕事のスタートに大きな経験をさせてもらった宝物のようなもの」と未唯mieさんは語ります。
「当時いただいた子どもたちからのファンレターの中に、『僕は今、病気で入院しているけれど、ピンク・レディーが頑張っているから、僕も病気と闘って頑張ります』とか、『僕は受験生で、今すごく苦しくて逃げ出したいけど、ピンク・レディーが頑張っているから僕も頑張ります』とか、楽曲だけでなく、私たちが頑張っている姿に共感してくれたり、自分も頑張ろうと思ってくれたりしている子どもたちがたくさんいたんですね。それを思うと、歌手冥利(みょうり)につきます」
未唯mieさんが歌うときに最も大切にしていることは何でしょうか。
「そのときどきに伝えたいと思うことは違いますし、楽曲によっても違うかもしれないですけど、聴いてくださった方が幸せを感じて、ライブでしたら幸せをお持ち帰りいただけるような歌を歌いたいと思っています」
今回のオールタイム・ベスト発売を記念して開催される未唯mieさんのライブでは、「Hallelujah《ハレルヤ》」をプロデュースした井上鑑さんがバンドマスターを務めます。
「今の私の歌をお届けします。全部の曲を聴いてほしいですけれども、『Hallelujah《ハレルヤ》』はまさに今の私。特に聴いてほしいなと思います」と未唯mieさん。東京は3月1日、大阪は4月30日にライブを予定しています。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefullyプロジェクトリーダー 坂本真子
写真=伊ケ崎忍撮影
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◆未唯mieの日「MIE to 未唯mie」リリースLIVE
◇3月1日(水)
第1部17:30開場、18:30開演/第2部20:30開場、21:15開演
BLUES ALLEY JAPAN(東京・目黒)
当日券の問い合わせ:03-5740-6041(会場・予約受付センター)◇4月30日(日)
第1部14:00開場、15:00開演/第2部17:00開場、18:00開演
ビルボードライブ大阪
問い合わせ:06-6342-7722(会場)http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13943&shop=2
◆オールタイム・ベスト「MIE to 未唯mie 1981-2023 ALL TIME BEST」
2023年3月1日発売、CD2枚組、4400円(税込み)。
https://www.jvcmusic.co.jp/PinkLady_MIE/
◆新曲「Hallelujah《ハレルヤ》」
各音楽サービスで配信中。
https://jvcmusic.lnk.to/mie_Hallelujah
◆DVD6枚組BOX「Pink Lady Chronicle TBS Special Edition」
2023年4月19日発売、2万9480円(税込み)。
https://www.jvcmusic.co.jp/pinklady
◆未唯mieオフィシャルサイト http://web-mie.com/
◆未唯mieオフィシャルInstagram https://www.instagram.com/mie_doux/
◆未唯mieオフィシャルブログ https://ameblo.jp/mie-doux
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