AG世代がいちばん話したいこと
「最初に相談してもらえる存在に」
プロ野球球団支える管理部マネージャー
Special ライフスタイル スポーツ キャリア 学び
[ 24.03.21 ]
今月末に開幕するプロ野球。その球団を支える裏方としてもAG世代が活躍しています。株式会社西武ライオンズ(埼玉県所沢市)の管理部マネージャー、松本あずみさんは会社の総務全般を担う裏方の大黒柱。「最初に相談してもらえる存在でありたい」と話します。
――入社されたきっかけを教えてください。
当社は新卒採用をしておらず、基本的に中途採用です。前の会社では16年ぐらいずっと経理の仕事をしていました。たまたま一ファンとしてホームページを見ていたら、経理スタッフ募集、と出ていたんです。当時は通勤に片道2時間ぐらいかかって体力的にきついと思っていたことと、子どもが小学校に入るタイミングで、これはチャンスだと思って応募したらトントンと決まって、2014年の2月に入社しました。今年で10年になります。
――「一ファン」とのことですが、いつごろからファンでいらしたのでしょうか。
小学校のアルバムを見ると、男の子はほぼライオンズの帽子をかぶっているような地域で育ちました。東大和市です。東京ですが所沢の隣ですし、野球の盛んな地域だったので、中学生の頃は女の子の友達と一緒によく見に行きました。現在の渡辺GM(埼玉西武ライオンズ球団本部ゼネラルマネジャーの渡辺久信氏)が現役でバリバリ活躍されていた頃です。その後も、野球で好きなのはずっとライオンズでした。
――社会人になってからも試合を見に行かれていたんですか。
働き始めて忙しくなってからはあまり見に行っていなかったんですけど、息子が生まれて、野球を好きになるといいなと思って、2歳ぐらいの頃から一緒に行くようになりました。ファンクラブで当時のハイグレード会員は自由席にフリーで座れるパスがついていて、息子がジュニア会員で未就学児だった頃は、年に40回ぐらい通ったこともあります。車だと家から10分ぐらいなんです。いまは、ホーム球場のベルーナドームで試合がある日は出勤なので、去年は息子と一緒に千葉のZOZO マリンスタジアムへ見に行きました。
「いないと本当に困る影武者」
――入社して最初は何を担当されたんですか。
最初は経理部に2年ぐらいいました。次に営業部で1年ちょっと営業事務の仕事をして、その後はずっと管理部で、7年ほどになります。
――管理部ではどんな仕事を担当していらっしゃいますか。
何でも屋ですね。会社の総務全般です。社長秘書、法務、危機管理、社員の福利厚生、食堂関連や懇親会の開催、各種備品や名刺の申請受付、部内の予算管理、冠婚葬祭の手配など。社員から「○○をしてほしい」「○○を直してほしい」「○○を買ってほしい」といった要望を受けて検討したり、チームのマネージャーを通して選手からの依頼を受けたりすることもあります。NPB(日本野球機構)関連の総務の書類を作成したり、選手やチームスタッフは個人事業主なのでその税金関係の雑務を担当したり。先月は支払調書を約300人分作りました。
コロナのときは職域接種やPCR検査も担当しました。選手の分はチームで、私たちは社員の検査をしたんですが、選手と接触する人はかなりの頻度で検査をやりました。最近多いのは、小中学校、高校の総合的な学習の授業で選手や会社に話を聞きたい、という問い合わせが来たときの対応や、学生の施設見学の依頼への対応など、何でもやります。
――まさに縁の下の力持ちですね。
そうですね。いないと本当に困る影武者の部署だと思います。私はもともと経理の仕事をしていたので数字に苦手意識がないですし、管理部に入ってからは、文章をチェックしたり作ったり、という作業も意外と苦にならずにできることに気づきました。できるならやろうかな、みたいな感じで、どんどん「自分でやります」と言って、気づいたらこんなに広がってしまった感じです。自分が関わったことがニュースとして報道されると、陰で支えている実感がわいて、自分の名前は出なくても、とてもうれしいですね。
――年間を通して特に忙しい時期はありますか。
野球のシーズンが終わってからの方が忙しくなります。まず、チームに新しい選手やスタッフが入ってくるので、その登録や情報収集。そして、チームや事業を動かしていくための契約更新や、広告スポンサー様との契約更新、新規のお客様との契約、及び、こうした契約全般のフォロー。また、駐車場の手配などいろいろなものの契約期間が1年なので、その更新作業があります。契約書のチェックや稟議(りんぎ)の申請も増えるので、2月、3月にそれがやっと終わった頃、次のシーズンが始まる感じです。
――入社してから印象に残っていることはありますか。
やっぱり2018年、19年にリーグ優勝したときですね。18年は札幌ドームで、19年はZOZO マリンスタジアムで優勝が決まったんですけど、19年のときは現地で優勝Tシャツを着た、辻󠄀発彦前監督や渡辺GM、後藤高志取締役オーナーに、優勝の喜びを一緒に分かち合えるような動画に出演してもらったんです。また、ベルーナドームでパンを販売しているお店に頼んで、「祝」と入れたあんパンを作ってもらいました。
優勝した翌日の朝、社員を集めて飲み物とあんパンを配って、社内のテレビでその動画を流したんです。社員みんなで見て「おめでとう」と盛り上がりました。チームの方々が協力してくれたことと、社員みんなと一緒に喜べたことがうれしかったですね。またやりたいので、次はベルーナドームで優勝を決めてほしいです。
球団と社員全員の懇親会を開催
――管理部のマネージャーはいつからですか。
2021年10月です。2年ちょっとですね。
――マネージャーになって変わったことはありましたか。
私がマネージャーになる前に「マネージャー」がいなかったこともあり、やっていることはそんなに変わらないですね。ただ、私が「はい」「いいえ」と言ったことが、そのままダイレクトに実行に移される場合もあるので、責任は増えました。
――勤務時間は何時から何時までですか。
シフト勤務なので、業務によってそれぞれです。たとえば、ベルーナドームでナイターの試合がある日は11時とか13時に出社して試合が終わるまで。何かあったときの対応に備えて、上司と私が交互に最後までいます。試合がビジター(他球団の主催試合)のときは、チームに同行する人以外は通常通り9時30分出勤になります。
――仕事をする上で最も大切にしていることは何ですか。
従業員が働きやすい環境を作ること、ES(Employee Satisfaction=従業員満足度)の向上が私たちの役目なので、何か困ったことや相談したいことがあったとき、「あずみさんに相談しようかな」と最初に思ってもらえる存在でいられたらいいな、と思って対応しています。たまたま会社に松本が3人いるので、みんな、下の名前で呼んでくれるんですよ。名前がわりと珍しいので、さんづけで呼ばれるとうれしいですね。そして、相談に乗った後に「やっぱりあずみさんに相談してよかったです」と言ってもらえるような存在でありたいな、と思っています。
――最近、特に印象に残っていることはありますか。
今年初めて、チームスタッフと社員、コーチ、監督も含む230人ぐらいが参加する懇親会を、川越プリンスホテルで1月末に開きました。最初は、社員とスタッフのコミュニケーションを深めてこの後の仕事にもつなげていけたら、とチームから提案されて、一緒にやりましょうと。12月半ばぐらいに準備を始めて、私は事務局として企画から携わりました。
参加者全員のプロフィールを集めて、社員同士やチームの人たち同士で固まらないように席を決め、全員にサプライズで今年のスローガン入りの名刺とボールペンをプレゼントしました。ホームユニホームに近い触り心地の、こだわりの名刺です。景品が当たる抽選会もやりましたし、渡辺GMや松井稼頭央監督、社長や役員が各テーブルを回って記念撮影をして、最後はみんなで今年のチームスローガン「やる獅かない」を叫んで写真を撮りました。「すごく楽しかった」という感想が多くて、やってよかったと思いました。
「自分を大事に、良いサイクルを」
――松本さんはいま48歳とのことですが、健康管理などで気をつけていることはありますか。
食事は朝しっかり食べて、夜はあまり食べないようにしています。夜が重いと朝起きづらくなったので。あとは次の日に引きずらないこと。何かあっても寝たら忘れるようには心がけています。実際に寝たらサクッと忘れます。父が沖縄出身なんですけど、よく「なんくるないさー」と言うじゃないですか。なんくるないさー精神でいこう、と思っています。
――気分転換にはどんなことをしていますか。
いま、息子が音楽の高校でトランペットを学んでいます。最初は球場で楽器を演奏して応援する応援団に入りたくて始めたんですけど、そのまま音楽の道へ進みました。息子がオーケストラに関心を持つようになってからはクラシックのコンサートに一緒に行くようになったので、40代で音楽の好みの幅が広がったな、と思います。
私自身は読書や音楽鑑賞が好きで、小さいライブハウスでお酒を飲みながら音楽を聴くこともあります。ジャズもロックも好きで、去年亡くなったチバユウスケさんが大好きでした。ミッシェル・ガン・エレファントにドハマリした世代です。最近は友達と休みを合わせて、ビールを飲みながらランチをすることが、背徳感があって好きですね(笑)。
――年齢を意識することはありますか。
私、全然ないんですよ。会社も性別とか年齢とか全然なくて居心地が良くて、そういう場所に身を置いているせいもあるのかな、と思います。女性社員は以前より増えて全体の3分の1弱ぐらいでしょうか。女性の管理職はいま私一人ですけど、それを意識することもほぼないですね。
――これからやりたいことはありますか。
法務や危機管理の仕事をもう少し深く学んで自分の知識にしたい、と思うことがよくあります。ただ、いまの生活だと、それを始めても疲れて続かない気がします。子どもが大学生になったらやってみたいですね。一生働いていたいので、そのための準備を50代でできたらいいな、と思います。
――AG世代にいま、いちばん話したいことは何でしょうか。
最近、自分でも思うんですけど、自分のことを後回しにしがちな生活を送っている人がすごく多い世代なのかな、と。でも、後回しにしたり優先順位が低かったりすることと、自分を大事にしないことは別かな、と考えるようになりました。自分を大切にして過ごすことでエネルギーがたまるし、それを他人に還元することが一番いい循環なので、良い循環を続けられるように過ごしていくことが大事なのかな、と思います。
そういう余裕がないと、イライラしたりきつく言っちゃったり、ということがどうしてもありますよね。余裕をもって人に接することはすごく大事で、自分を大事にしていないと優しくなれないし、自分を大事にしていないのに他人に優しくしても、最終的に空っぽになっちゃうと思うので、良いサイクルのためにも、まずは自分を大事にして他人にも優しくしたい、と思います。なかなか実践は難しいですが。
――忙しいと、気持ちに余裕をもつことは難しいですよね。
本当にそう思います。忙しいとどうしても睡眠を犠牲にしがちですけど、睡眠も大事です。何か心配なことがあったら、すぐ病院に行って検査することも、長い目で見たときに、自分を大切にしてよかった、と思うはず。自己犠牲という言葉がもてはやされた時期もありましたけど、自分が元気じゃないと周りも元気じゃなくなるし、自分のことを守れるのは自分しかいないですから、まずは自分のことを考えましょう、と伝えたいです。
- 松本 あずみ(まつもと あずみ)さん
- 1975年生まれ、東京都出身。2014年に株式会社西武ライオンズに入社。経理部、営業部、管理部での勤務を経て、21年10月から管理部マネージャー。
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◇株式会社西武ライオンズ 公式サイト https://www.seibulions.co.jp/
◇埼玉西武ライオンズ 公式サイト https://www.seibulions.jp/
◇西武ライオンズ 公式note https://column.seibulions.co.jp/
40代と50代、Aging Gracefully(=AG)世代の日本の女性たちの生き方は、どんどん多様化しています。最も多いライフコースは「専業主婦」だという調査結果がありますが、それでも4割に満たず、家族の形も働き方もさまざまです。
「AG世代がいちばん話したいこと」は、そんなAG世代の女性たちが、いま最も伝えたいこと、生の声をお届けします。
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