“自分時間”でパワーアップする
大人女子が没頭 カープだ庭だ
AERA presents キャリア ライフスタイル マインド レクリエーション 学び 子育て
[ 19.11.18 ]
仕事に家庭に忙しさに追われる女性たち。でも40代を過ぎた頃から特に、「自分時間」が必要になる。その時間があるから仕事も頑張れるのだ。
応援を通して、自分も解放される
一日思いきり働いて脳がパンパンの状態のまま帰宅する。頭も体も疲れているはずなのに、パソコンの前に座り、YouTubeを立ち上げ、広島カープの選手たちのプレーを見る。日本生命の健康経営推進部長の中林ルミさん(47)にとって、ここからが自分だけの特別な時間だ。
「プレーを見て、気づいたら感動で涙していることもあります。過去のプレーや気に入った映像を何度も見直すことも。何かに熱中する、ということはもうないかな、と思っていたのですが」
6年ほど前、同じ部署にいた後輩がたまたまカープファンだったことがすべての始まり。
「ナイターを観に行くから一緒に行きません?」
野球にもスポーツ観戦にも特別興味を持ったことがなく、誘われても「屋外で飲み会をするのね」くらいの感覚だった。
「最初は『あの選手、よく打つな』くらいにしか考えていなかったのですが、次第に夜のプロ野球ニュースで、知っている選手が取り上げられていると『あっ!』と反応するように。スポーツニュース一つにしても、見方が変わっていったんです」
マネジメントに気づき
もっと多くの映像を見ることができるなら、といままで使ったこともないアプリもダウンロードしてみた。社内で話したことのなかった先輩や後輩が「カープファンなんでしょ、私も」と声を掛けてくれることも。そして何より、マネジメントの立場だからこそ得られる気づきがある、と感じている。
「選手はどういう気持ちでプレーしたのかな、と考えると、『私の部下は、どんな気持ちで仕事をしているのか』とまで、考えを及ぼすようになりました。苦手意識があるのかな? プレッシャーなのかな?と思うように。それが正しいとは限らないのですが、想像を広げることができるようになりました」
自然のなかで過ごして心身健康に
大人になってからハマる趣味がある。そんな趣味が、仕事や家庭で忙しい女性たちのパワーになっている。
「30代の頃はコンプレックスばかりで、MBAがないとダメ、英語が堪能でなければ社会人失格とさえ思っていた。けれど、40代後半になりそうした承認欲求が一切なくなりました」
そう話すのは、VRビジネスを展開するハコスコ取締役COOの太田良恵子さん(48)。44歳のときに、夫とともに静岡・熱海の山奥に一軒家を買い、リモートで働きながら仕事の合間を縫って庭いじりに没頭している。人生の折り返し地点を過ぎ「もし来月死んでしまうとしたら、何ができていれば満足して死ねるだろう」と考えたときに思い浮かんだのが、「畑仕事ができる家」に住むことだったのだ。
履歴書に書けなくても
朝起きて、裏山を20分かけて1周する。鳥のさえずりを聞きながら、オンライン会議に参加する。煮詰まったな、と感じたら庭に出て草むしりをしたり、剪定をしたり。わずか5分手を入れるだけで、見た目が変わる。そこに達成感があり、最高の気分転換となる。働き方を変える前、終電まで働き続けた40代前半までの日々からは、考えられない生活だ。 「自分に許された時間だな、と感じています。40代だからこそ、これまで頑張って働いてきたし精一杯やり切った、という気持ちもある。庭いじりなんて、スキルとして履歴書に書けるわけでもないのに(笑)」
引っ越した当初は小さな頃から憧れていた畑仕事をしようと、家の裏に畑をつくりトマトや葉物野菜などを植えてみた。だが、土壌の悪条件などが重なり失敗に終わった。
「でも一回やってみたら満足できた。大切なのは『やった』という充実感なのかもしれません」
40代後半の大人女子たちが趣味や自分のための時間を積極的に持つようになった背景には何があるのか。世代・トレンド評論家で『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?』などの共著がある牛窪恵さんは言う。
「いまの40代半ば前後の女性たちは団塊世代の子どもに当たる団塊ジュニア世代。子どもの頃から一人部屋が与えられ、一人遊びに慣れている世代です。そのため、子どもがいてもいなくても、『一人の時間がほしい』と思う傾向がとても強いんです」
友達といても個別にゲームを楽しむ。一人になり音楽を聴く。昔からそうした楽しみ方をしてきたため、大人になっても自分の時間を大切にするのだという。
家に自分のテリトリー
牛窪さんによると、団塊ジュニアは、男女平等の教育を受けている世代でもある。「夫の給料で○○させてもらう」という感覚は希薄で、家のなかに自分のテリトリーを持とうとする。自分の領域を決め、決められた空間でいかに楽しめるか、というのが共通するスタンスだ。
「消費に関しても、自分のテイストを大切にし、長く使えるものにお金を使う。安物買いは嫌いで、『質のいいものを使い倒そう』という考え方ですね」(牛窪さん)
新しいことにチャレンジしようとする女性たちを多く取材するなかで、牛窪さんが頻繁に耳にするフレーズがある。それは、「50歳になるまでには」という言葉だ。
「女性の場合、40代半ばから体力的な衰えを感じるようになることもあり、『このままぼーっと生きていると、新しいことにトライできなくなる』という意識も働くのかもしれません」(同)
牛窪さんによると、趣味や自分のための時間を大切にする女性たちのあいだで近年顕著に感じるものの一つがリカレント教育(学び直し)ブームだ。
親が勉強する姿を見せるチャンス!
子どもと勉強仲間に
ライター、プランナーとして働く女性(50)は、48歳のときに国立の大学院に入学し、今年3月に卒業した。執筆やプランニングの仕事をするなかで、「きちんと統計が取れるようになれば、もっと説得力のある記事を書くことができるのに」と日々漠然と感じていたことがきっかけだった。
当時、長女は高校2年生で1年間留学へ。長男は小学5年生。
「子育てが半分になったことも大きかった。実際に勉強を始めてみると、やはり子どもが幼いときは無理だっただろうな、と感じました」
前出の牛窪さんも、こう口にしていた。
「『何かに挑戦したいと思っても、子どもが幼いために物理的に難しい』と感じていた女性たちが、子どもから手が離れたことで実行に移すのも40代後半から50代の特徴です」
この女性は社会人入試を受ける前は1日最低6時間、最高で12時間、英語を中心に勉強した。やりたいことが明確だったから、楽しみながら頑張れたという。
大学時代はいかに授業をサボるかを考えていたが、勉強できるありがたみを感じた。そして子どもとの関係も変わった。
「長男は受験生だったこともあり、『一緒に勉強をしよう』と誘われるように。お互い“勉強仲間”のような感覚です」
今後は大学院で身につけた知識を武器に、さらに仕事でステップアップするつもりだ。
社会経験豊富な大人女子たちは、趣味や自分のための時間を“人生の小休憩”で終わらせない。心の充実感はそのまま、その後の人生のステップアップに繋がっていた。