Dr.HisamichiのKeep on Walkin’ Vol.3
足のにおいをsmile away
Special ヘルスケア ライフスタイル キャリア 学び
[ 20.09.11 ]
猛暑の日々、靴の中は汗だくでにおいが気になるという方も少なくないのではないでしょうか。
「足のにおい」でふと思いだすのは、元ザ・ビートルズのポール・マッカートニーです。と言っても、彼の足が臭いというわけではありません(知りませんけどね)。彼の曲を思い出すのです。曲名は「スマイル アウェイ(Smile Away)」。笑い飛ばそうぜ、という歌です。歌詞はと言えば……。
♪この前、道を歩いてたら友達に会ったんだ。彼が言うには「お前の足は1マイルも先までにおってるぜ」だって。笑い飛ばそう、笑い飛ばそう、笑い飛ばそうぜ!♪
「においを放つ(smell away)」と「笑い飛ばす(smile away)」が韻(いん)を踏んでいるのですね。軽快なロックンロールなのですが、ポールは楽しそうに歌っています。
さて、現実に知人と会って「お前の足はすごいにおいだぜ」と告げられたなら、私であれば、ちょっと笑い飛ばすことはできないでしょう。「デオドラント命」の青春時代ははるか昔に過ぎ去りましたが、それでも十分に気分はへこみ、今後は何らかの対策を取らねば、と固く決意することでしょう。
では、その足のにおいと対策についてです。足のにおいは、角質や皮脂が、過剰に繁殖した足の細菌(コリネバクテリウムなどの常在菌)により分解されてイソ吉草酸、アンモニアなどの悪臭物質が作られることにより生じます。要するに、足のバイ菌が角質を食べて、におい物質を作り出すわけです。
対策は二つ考えられます。
① 細菌を繁殖させないこと。
② 繁殖してしまった細菌を殺すこと。
まず、細菌の繁殖を防ぐ対策ですが、一般的に細菌は高温多湿、ジメジメした環境を好むため、乾いた環境にすれば良いわけです。しかし、女性の中には通気性や吸汗性に難があるナイロン製のストッキングに、足指を密着して締め付けるパンプスやハイヒールを履く方もいると思います。
ストッキングからコットン素材の靴下に変えられれば良いのですが、職場によってはそうはいかないこともあるでしょう。このあたりはストッキングメーカーも認識していて、①吸放湿性の高いナイロンを使用する ②足底に綿を編み込む ③5本指ストッキングで指間部の密着を防ぐ ④指の部分が解放されている「トング」タイプのストッキングを作る など、工夫を凝らした商品が出てきています。また、よりダイレクトに「におい対策」をうたうストッキングもあります。製造工程で染色する際に、消臭効果のある薬剤や、抗菌作用のある物質を添付させるのです。
一方、靴については、動きが多く、汗をかき、蒸れやすい通勤時はスニーカーを着用し、職場ではパンプスに履き替えるなどの工夫で、かなりの効果が期待できます。
また昨今は、テレワークで在宅勤務という方も少なくないでしょう。
家でできるにおい対策のケアは、ホットタオルでこまめに足を拭き、タオルでしっかりと水分を拭き取ること。 入浴時も、足の指の間や爪の間を泡立てたせっけんで洗い、よく乾かしましょう。
市販の消臭スプレーも良いですが、かぶれる人も少なくありません。赤みが出たり腫れたりしたら、皮膚科を受診してください。
足を清潔にし、乾燥してもにおいが気になる場合は、病院を受診することをお勧めします。
治療の対象となるケースはいくつか考えられます。一つは 水虫。前回の記事でもご紹介しましたね。
もう一つは「点状角質融解症」です。
ちょっと聞きなれない病名だと思います。以前は熱帯や亜熱帯地域の皮膚病と言われていたのですが、近年は日本でも、夏場にはかなり多くみられるようになっています。
足底の皮膚に点状のへこみができて、しばしば皮膚が白くふやけたようになります。ときに歩行時に痛みを伴うこともあります。
最大の特徴は、その強烈な悪臭です。原因は細菌の繁殖ですから、抗生剤で治療をします。大体は外用で十分ですが、ときに内服が必要になることもあります。皮膚科にいけば容易に診断をつけてくれるはずです。
最後に足のにおいの根本的な要因になる、 多汗の治療について少し触れます。
多汗症に対してはよく、塩化アルミニウム液の外用が用いられます。軽症であればある程度効果がありますが、重症の場合にはさして効果はありません。
そんな時に用いられることがあるのが、ボトックスによる治療です。
しわの治療薬として有名ですが、多汗にもよく効きます。欠点は、手足の多汗治療は自由診療となるため、数万円の治療費が全額、自己負担になること。さらには注射治療ですから、痛みを伴います。また、一部の既往症がある方には適用できません。
とはいえ、大きな副作用はないので、多汗やそれに伴うにおいで悩んでいる人には、選択肢となるかもしれません。
- 久道勝也(ひさみち・かつや)
医療法人社団青泉会下北沢病院理事長・ロート製薬最高医学責任者。
1964年、静岡県生まれ。93年、獨協医科大学卒業。同年に順天堂大学皮膚科入局。2007年、米国ジョンズ・ホプキンス大学客員助教授、11年、ヤンセンファーマ研究開発本部免疫担当部長。虎の門病院皮膚科勤務、アラガン社執行役員メディカルアフェアーズ本部長を経て、14年からロート製薬研究開発本部執行役員、16年から下北沢病院理事長を兼務。
日本皮膚科学会認定専門医、アメリカ皮膚科学会上級会員、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」プログラムオフィサー。著書に『死ぬまで歩きたい!―人生100年時代と足病医学』(大和書房)。『ガイアの夜明け』(テレビ東京)など多数メディア出演。