Dr.HisamichiのKeep on Walkin’ Vol.4
ヒールもつらいけど、ペタンコ靴も。
理由は●●の脂肪減少?
Special ヘルスケア 更年期 ライフスタイル
[ 20.10.19 ]
今回は、更年期障害と、それに伴う足の症状についてお話ししたいと思います。
今まさに、更年期の症状で苦しんでいるという方も少なくないのではないでしょうか。
日本に「更年期」という概念が導入されたのは、明治時代だそうです。動悸や、「ホットフラッシュ」と呼ばれる顔面のほてり、多汗、全身の倦怠(けんたい)感、不眠、激しい気分のアップダウンなど、症状は多彩で、人によっては「これは大きな病気に違いない」と考え、さらに不安を募らせるという悪循環にはまってしまいます。
更年期症状は、加齢に伴って卵巣からの女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が乱高下しながら減ることにより、生じると考えられています。エストロゲンの分泌量が減ると、脳は卵巣に「エストロゲンを出せ」と命じます。しかし、卵巣はその通りに出せなかったり、時には激しく出しすぎてしまったりします。その乱れが、症状の出方の強度に影響してくるのです。
更年期障害は、足にも表れます。代表的なものが、扁平(へんぺい)足とその関連疾患です。女性ホルモンが減ると、骨どうしをつなぐ腱や靭帯がゆるみます。また、中高年になると代謝が落ちて太りやすくなるため、足への荷重も増してきます。これがアーチの低下、ひいては扁平足につながります。偏平足は、後脛骨筋機能不全(こうけいこつきんきのうふぜん)、足底腱膜炎(そくていけんまくえん)といった様々な足の病気の原因になるのです。
後脛骨筋機能不全とは、足のアーチを支える筋肉に障害が起きる疾患です。中高年の女性で、明らかな原因がないのに、内くるぶしの下あたりが痛いとか、立っているときに強い扁平足があり、後ろから見ると、かかとが内側に倒れている場合は、この疾患を疑います。ひどい場合では、後脛骨筋腱が断裂していることもあります。
足底腱膜炎とは、足の裏のかかとから、土踏まずの真ん中あたりまでの痛みです。特に、朝起きて歩き出すときに痛みが強いのが特徴です。足の裏を走る「足底腱膜」に炎症が起きるのです。睡眠や休息でゆるんでいた足底腱膜が、歩行時の荷重で急に引き伸ばされることから痛みが生じます。
後脛骨筋機能不全も、足底腱膜炎も、 靴の選び方やインソールの調整、アキレス腱伸ばしなどの運動、ステロイド注射や時に幹細胞治療といった保存的治療によって、対処します。また、重症例では手術も選択肢となります。
他にも、この世代の女性に多いのが、足の指の付け根部分の痛みに関する相談です。
先ほど、中高年になると太りやすいという話をしましたが、実はこの時期に脂肪が減る部位もあるのです。どこだか分かりますか?
代表的なのが、顔と足の裏です。顔の脂肪は肌に張りを持たせますが、加齢に伴い脂肪の体積が減ってきます。エストロゲンの減少で顔面の靭帯も緩み、たるんできます。足の裏の脂肪も減ります。この脂肪は元々、足の裏にかかる荷重のショックアブソーバーの役割を担っていました。このため脂肪が減ると、「中足部」という足裏の指の付け根部分が痛むようになります。
特に、長年ハイヒールやパンプスを履いてきた女性たちは、この部位に通常の5~7倍といわれる強い圧がかかり続けてきたわけです。ショックアブソーバーが無くなった足の骨は、ダイレクトにこの圧をうけます。「ごつごつした岩の上を裸足で歩いているような」鋭い痛みが特徴です。ハイヒールも痛いけれど、底の薄いフラットシューズやサンダルも痛くなったという方は、この疾患を疑った方がよいかもしれません。
解決のポイントはやはり、靴にインソールやクッションを装着することです。また、脂肪を補うために、足の裏にヒアルロン酸を注入する治療法もあります。効果的ですが、ヒアルロン酸は吸収されてしまうため、半年に一度くらいのペースで続ける必要があります。
次回も、更年期によくある足の不調についてお話ししたいと思います。「私は大丈夫!」と思っている方も、明日にも症状が出ないとも限りません。少し知識を持っておくだけで、対処しやすくなることもあると思います。お役に立てれば幸いです。
- 久道勝也(ひさみち・かつや)
医療法人社団青泉会下北沢病院理事長・ロート製薬最高医学責任者。
1964年、静岡県生まれ。93年、獨協医科大学卒業。同年に順天堂大学皮膚科入局。2007年、米国ジョンズ・ホプキンス大学客員助教授、11年、ヤンセンファーマ研究開発本部免疫担当部長。虎の門病院皮膚科勤務、アラガン社執行役員メディカルアフェアーズ本部長を経て、14年からロート製薬研究開発本部執行役員、16年から下北沢病院理事長を兼務。
日本皮膚科学会認定専門医、アメリカ皮膚科学会上級会員、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」プログラムオフィサー。著書に『死ぬまで歩きたい!―人生100年時代と足病医学』(大和書房)。『ガイアの夜明け』(テレビ東京)など多数メディア出演。