AGカフェVol.11
おうちでピンチョスを楽しもう!
Project report グルメ レクリエーション 学び
[ 21.09.27 ]
AG世代の「学びとネットワーキングの場」として、定期開催しているAGカフェ。11回目は8月28日、「おうちでピンチョスを楽しもう!」と題して、料理講座のオンライン配信に初挑戦しました。
「美食の街」として知られるスペインのサン・セバスチャンを訪問し、著名なバル(立ち飲み居酒屋)を取材した料理研究家の海豪(かいごう)うるるさんを講師に迎え、スペイン風のおつまみ「ピンチョス」4品を作るプログラム。全国から16名の方にZOOMでご参加いただきました。
海豪さんは中華料理やフレンチ、イタリアンなどを20年以上学び、レシピ開発やコンサルティングなど、料理研究家として活動しています。
「食は万国共通語。『おいしい』を研究することは、『幸せ』を研究することでもあると考えて、食と科学、教育、政治など、様々な分野とのコラボレーションにも取り組んでいます」と自己紹介しました。
料理研究家の海豪うるるさん
ピンチョ(Pincho)はもともとスペイン語で「楊枝(ようじ)」や「とがったもの」を意味し、ピンチョスは複数形です。そこから転じて、串に刺した一口サイズのおつまみをピンチョスと呼ぶようになり、今は小皿に盛ったおつまみもピンチョスと呼ばれるように。
そして、このピンチョスの発祥の地が、スペインとフランスの国境地帯にあるバスク地方の街、サン・セバスチャン(バスク語名:ドノスティア)と言われています。
山と海に囲まれ、王族や貴族の避暑地として発展してきたサン・セバスチャン。人口は18万人で、大都市ではないのですが、世界中から観光客が訪れます。その理由とは?
「ミシュランの星を獲得したレストランが6軒あり、その数が人口比や面積比で最も多い街だからなんです。『サン・セバスチャンの星は空ではなく、地上に輝く』とも言われています」と海豪さんは説明しました。なぜ、レベルの高いレストランがこの街に集積しているのでしょうか。歴史は、40年前にさかのぼります。
1960年から70年代にかけて、フランスではこってりした味付けの伝統的な調理法に代わり、食材本来の味をいかして軽さや繊細さを重視する『ヌーベル・キュイジーヌ』という動きが広がっていました。
「サン・セバスチャンからも多くのシェフが渡仏しました。彼らが1970年代後半に帰国し、伝統的なレシピをいかしつつ、一工夫加えたレシピの開発に取り組み、お互いに共有したんです」
また、バスクには伝統的に男性の社交の場としての料理クラブがあり、そこでもレシピが共有されたことで、レストランやバルも含め、街全体の食文化のレベルが上がっていきました。
「普通ならレシピは門外不出ですが、『数軒の高級レストランより、おいしいバルが100軒ある街の方が魅力的だ』という考えに皆が賛同し、レシピの公開に反対したシェフはいなかったそうです」と海豪さん。
海豪さんは数年前、サン・セバスチャンのバルやレストラン、観光局などを訪ね、レシピや食文化について取材し、レシピ本 「本場の人気バル直伝! ピンチョスレシピ」(PHP研究所)を出版。この日も、レシピ本から4品を教えていただきました。
1品目は「アヒージョ」。
オリーブオイルとニンニクで食材を煮込む定番メニューです。老舗バル「シアボガ」の看板メニューはじゃがいものアヒージョですが、この日はマッシュルームを使いました。
マッシュルームのアヒージョ
最初に、マッシュルームをオリーブオイルとニンニクで炒めます。
「ニンニクがこげないように、弱火にしてください。マッシュルームがくったりするまで柔らかく炒めた方が、うまみもしっかり出ますし、油となじんで美味しくなります」と海豪さんからアドバイスがありました。
マッシュルームに火を通す間、2品目の「カニかま玉のピンチョス」に取りかかります。
カニかまは1970年代に日本で発売され、1980年代からはヨーロッパでも流通し始めたそうです。ヘルシーな日本食ブームも追い風となり、現在では日本よりEUでの消費量の方が多いとのこと。「スペインでもスーパーで『SURIMI』という名前で打っています。カニかまを使ったピンチョスもバルでは『SURIMI』と表示されていたりします」と海豪さん。太めのふんわりしたカニかまをほぐし、粗く刻んだゆで卵とあわせ、マヨネーズで和えます。
カニかま玉のピンチョス
味見をし、足りなければ塩を足します。
海豪さんが使ったのは、スペインのマヨルカ島の塩。海水を天日干しする伝統的な方法で作られており、粗めの質感が特徴的です。
バゲットに、カニかまとゆで卵を和えたものを盛りつけ、仕上げに「白トリュフオイル」を回しかけます。50mlで2000円前後と安くはないのですが、「パスタやサラダなど、簡単なメニューにかけるだけでグレードアップ感が出ます。卵かけご飯にかけるのもおすすめです」と海豪さん。
3品目は「美食家のピンチョス」。
生ハムとシーフードを使う、バル「メソン・マルティン」の人気メニューです。エビは殻をむいて背わたを取り、イカは食べやすい大きさにカットし、オリーブオイルで炒めます。本場では、イカはヤリイカの小ぶりなものを使いますが、刺し身用のものや、冷凍のシーフードミックスでもよいそうです。
美食家のピンチョス
炒めている間に、上からかけるパセリオイルを作ります。刻んだニンニクとイタリアンパセリ、塩とオリーブオイルを混ぜるだけ。
バゲットに生ハムを敷き、炒めたエビとイカを載せて、上からパセリオイルをたらり。赤と緑のコントラストが食欲をそそります。
4品目は「アンチョビのトルティージャ」。
スペイン風のオムレツで、この日はバル「ベルガラ」のレシピを参考にしました。まずはオリーブオイルとニンニク、アンチョビを焦がさないように香りが立つまで炒めます。その後、溶いた卵を流し、菜箸で半円を描くように混ぜながら焼きます。「フライパンは小さめがおすすめ。卵焼き用でもいいですよ」と海豪さん。
周辺部が固まったら、フライパンがかぶるくらいの大きな平皿をかぶせてひっくり返し、トルティージャを横滑りさせながら戻し入れます。火が通ったら放射状に切ってできあがり。
これで4品が完成しました。
アンチョビのトルティージャ
実食タイムは、参加者の皆様と画面越しに乾杯の記念撮影をしました。最初は飲み物を手に、2回目の乾杯は、ピンチョスのお皿を手に。そして、バスク地方特産の微発泡ワイン「チャコリー」を紹介しました。
飲みたい気持ちは山々でしたが、ぐっと我慢して、注ぐだけに。
「現地のバルでは、店員さんが少し高い位置からグラスに注いでくれます。気泡が立ち、フレッシュな香りがひきたつと言われています」と海豪さん。
参加者の皆様と、画面越しに「乾杯!」
チャコリーはほとんどが白だそうですが、この日は珍しいロゼを、海豪さんが持ってきてくれました。
「酸味があるので、油がのったサーモンやサバとも合いますし、酸っぱいものどうしで、しめさばやサラダとも合います」と海豪さん。
この日紹介した「タライベリ」というワイナリーのチャコリーは、「ユウキ食品」という会社のオンラインショップで、3500円前後で買えるそうです。
食事中は、参加者からの質問に答えていきました。
「食材が余らないよう、別のレシピも教えてください」という質問には、マッシュルームを例に挙げ、「焼くか、衣をつけてフライにし、チーズやアンチョビをトッピングするのもおすすめです。アヒージョをリゾットにしてもいいですね。シーフードが余ったら、アヒージョに加えるとうまみが出ます」と海豪さん。
瓶の色やデザインも美しい、バスク地方のワイン「チャコリー」
「どんなものでもピンチョスの材料になりますか?」という質問には、「なります!」と即答。
「回転ずしと似ているなと思うんです。最近はポテトサラダや焼き肉をのせた軍艦など、いろんなおすしが増えていますよね。ピンチョスのバゲットをシャリに置き換えて考えてみるといいかもしれません」と解説しました。
「オリーブのアレンジメニューを教えてください」という質問には、「ピンチョスの元祖と言われているのが、オリーブと、酢漬けの青唐辛子をアンチョビで巻いて串刺しにした『ヒルダ』。漁師さんが仕事帰りにつまむ、本当にシンプルなおつまみです。ほかにも、ポテトサラダに刻んで入れたり、なすを薄切りにしてグリルした上に生ハムや刻んだオリーブをトッピングしたりしてもいいですね」
伝統的なピンチョス「ヒルダ」
サン・セバスチャンの取材の思い出話も教えていただきました。
老舗の三つ星レストラン「アケラレ」で食べた初夏の一皿は、ベビーリーフに、フォアグラをペーストにして葉っぱの形にかたどり、水滴のようにドレッシングを散らしたサラダ。
オーナーシェフのスビハナさんが一番大事にしていることとして、「食べる人の感情を揺さぶること。予約受け付けから当日のお見送りまで、スタッフが一丸となって感動やサプライズを提供することに徹しています」と語ったのが印象的だったとのことでした。
「アケラレ」でふるまわれたサラダ=海豪さん提供
あっという間の90分。参加者からは「コロナで海外旅行ができない中、スペイン旅行の気分を味わえました」という感想もいただきました。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!
取材・文=朝日新聞社 Aging Gracefullyプロジェクトリーダー 前田育穂
撮影=朝日新聞社総合プロデュース本部 アート・ディレクター 金子裕也