わたしらしく輝く 色とりどりの社会へ
はたらく 新たなステージで輝く
Special ライフスタイル キャリア
[ 21.11.15 ]
昭和に育ち、男女雇用機会均等法の号砲で平成を走り抜けた、40代、50代のAging Gracefully (AG) 世代。一人ひとりの色とりどりの人生が、社会を少しずつ前へ前へと進めていきました。
AG世代をフィーチャーした、朝日新聞の2019年10月の特集記事を紹介します。今回は、自分らしい働き方を模索し続ける3人のストーリー。
企業で働く。家族の暮らしを支える。経験を重ね、育児も一段落したAG世代は、働きどきなのかもしれません。新しい自分へ、ギアチェンジが進んでいます。(肩書、年齢は掲載当時)
組織で得た気づき、今は自分の物差しで
企業の部長職→フリー 小嶋美代子さん
「これからの人生、あなたの気球をもっと上に飛ばすためには、どの重りを捨てますか」。2年前にキャリアを考えるコーチングで問いかけられました。「会社にいることが私の重りかもしれない」。漠然とあった思いがはっきりしました。そのまま48歳の夏、28年間働いた企業を退職。現在は「ひとりじめしない」がコンセプトの個人企業アワシャーレをつくり、在職中に出会った「ダイバーシティー(多様性)」を広める活動をしています。
18歳で男女雇用機会均等法が施行された時、母子家庭で懸命に働いた母が「これからは女の人も存分に働ける。良かったね」と言ってくれました。私は技術職でIT企業に入社。コンピューターシステムの開発やブランド戦略の構想……。仕事はやりがいがあった。女性であることは壁にもチャンスにもなりました。36歳の課長昇進は男性と比べても早かったと思います。
でも、ダイバーシティ推進センタ長という部長職に就いた後、「このままでいいの?」と。せっかく入った大企業だからこそできることを社会のために使いたい、そのために権限が欲しい。そう思って続けてきたはずなのに。ただ合格点を取るため、会社に適応しようともがいてきた自分に気づきました。
車いすで他の障害者のために走り回るネパール人女性アンジャナとの出会いも、私の背中を押してくれました。いまはオフィスを持たず、近所のゲストハウスのカフェが仕事スペース。自分の物差しだけで働くのはしんどいけど楽しい。会社で育ててくれたから今の私がある、と感謝しています。
子育て一段落、誰かのために頑張りたい
専業主婦→ベビーシッター 太田優子さん
ベビーシッターの仕事を週4日しています。子どもとの留守番に学校や保育園への送迎、夕飯の支度も。お母さんたちは走って帰ってくる。本当に皆さん頑張っていると思います。
短大を出て銀行に勤め26歳で結婚。結婚したら女性は退職した時代です。当たり前に受け入れて専業主婦に。2女1男の育児に追われ、美容院に行くのも半年に1度くらい。自分の時間はまったくなく、働くなんて考えたこともなかった。
気持ちが変わったのは昨年3月です。末っ子の息子が大学受験で夜10時まで塾に通い始めたら、夕飯の支度が不要になり、することがなくなってしまった。永遠に続くと思っていた子育てが突然終わって、心に穴が開いた感じでした。働くといっても資格もないし、自信がない。そんな時に何かの記事でこの仕事を知り、これならできるかもと思いました。
育児しながら働く女性が多いことに驚きます。世の中こんなに変わったんだと。
今は母親目線で、自分がしてほしかったサポートを心がけています。料理を喜んでもらえたり、預かるお子さんとの距離が縮まったりするとやりがいを感じます。誰かのためなら頑張れるのは育児も仕事も同じですね。
上の娘は社会人1年目。就活のときには「長く働ける仕事がいいよ」とアドバイスしました。育児はあっという間に終わってしまうから、働いていた方がいいと今は思います。もう少ししたら、孫のお世話もしなくちゃいけないかな。娘には今から「ママお願いね」って言われているので。それも楽しみです。
就職支援課程を経て再出発、新鮮な毎日
会社員→主婦→外資系企業 河村彩子さん
東京・銀座にある英国系企業で、人事・労務を担当し、産休・育休の制度づくりなど働く環境整備に携わっています。職場にいる約70人の出身地は20カ国以上、日本人は4割ほどです。
米国の大学を卒業し、シカゴの日本企業で1年間働いて帰国。外資系の証券会社に勤めて結婚、30歳で上の娘が生まれたときに退職しました。子育て中心の生活をしていましたが、2011年に夫が急死しました。
突然のことで、自分に何ができるのか、何をしたいのか、わからなくなりました。当時、子どもは13歳と10歳。英語力を生かし日本語教師も考えましたが、収入面で不安がありました。
「企業でまた働きたい」と思い、女性の再チャレンジを支援する日本女子大のリカレント教育課程に13年9月に入学しました。週3~5回、20~40代のクラスメート15人ほどと一緒にITリテラシーや英語、社会保険などを1年間学びました。
就活は厳しかったですね。企業は40歳以上をなかなか採用してくれず、書類選考で落ちることもたびたび。めげずに応募し続け、15年1月に経理関係の会社で再出発。転職を経て今年1月から今の会社にいます。採用は外国人社員の支援を含む人事業務の経験がポイントでした。様々な文化背景の仲間と新たな業務に取り組むことに楽しさを感じます。
職場では最年長です。「若い人のほうが仕事ができる」と感じることもありますが、人と人の間の緩衝材になるなど「年を重ねているからこそ」もあります。「いい経験も大変な経験も、前に進める力に」と思っています。
50代女性、仕事への意欲再上昇
働く意欲が男性は年を重ねて低下し、女性は50代で再び上昇――。21世紀職業財団が50~60代の正社員と定年後も働く男女に行った調査でこんな傾向がわかった。
2019年1月、インターネットで2820人を調査。仕事で何を重視したか、の質問に「自分の成長」と回答した人は、女性は20代の27.4%をピークに30代、40代で低下後は50代で20.5%と再び上昇。一方、男性は20代から下降の一途だった。
調査を行った山谷真名・主任研究員は、背景の一つに育児負担の男女差を挙げる。「育児が仕事の制約になると感じていた」と答えた50代は男性が25.2%、女性が7割超。「50代は育児を終えて再び仕事に集中できるとき。課題は企業が意欲ある女性に活躍の場を用意できるかです」
現状では待遇や賃金に男女差がある。「年齢で区切る単線的なキャリアコースだけでは企業は行き詰まります。一度コースから外れても、また戻れる社会にすることが大事」と山谷さんは話す。