わたしらしく輝く 色とりどりの社会へ
自分と世の中 その一歩が、動かす
Special ライフスタイル キャリア 子育て
[ 21.11.29 ]
昭和に育ち、男女雇用機会均等法の号砲で平成を走り抜けた、40代、50代のAging Gracefully (AG) 世代。一人ひとりの色とりどりの人生が、社会を少しずつ前へ前へと進めていきました。
AG世代をフィーチャーした、朝日新聞の2019年11月の特集記事を紹介します。今回は、仕事の経験や、地域での付き合いを通じて見えてきた社会の課題に取り組む女性たちのストーリー。AG世代ならではの人生経験を「誰かの力に」と奔走しています。
始まりは「自分のため」、今や地域も行政も一緒に
松田妙子さん
まつだ・たえこ 1969年生まれ。
渋谷区出身で、3人の子の母親。地域で産前産後ケアや子育てスペース作りを進める。子育てひろば全国協議会理事。
マシュマロが焦げる甘い香りが漂ってきた。東京都世田谷区のUR芦花公園団地。広場の一角で子どもたちが七輪を囲み、枝に刺したマシュマロを見つめる。「もう焼けたかな?」「とろとろ!」。近くでは焼きリンゴやポリ袋を使ったオムレツも出来上がった。
晩秋の週末に開かれた「地域防災はじめの一歩」。赤ちゃんからお年寄りまで約350人が集まった。しかし、その目的は防災だけではないらしい。
「ナンパするのよ」。
主催するNPO「せたがや子育てネット」の代表、松田妙子さん(50)がいたずらっぽく笑う。杖をついて通りかかった高齢の女性に声をかける。「一人? 何号棟? 食事会やってるから今度来てね」。初めて見かけた親子や妊婦は敷地内の子育てスペース「おでかけひろば ぶりっじ」に誘う。
お年寄りがいて、親子がいて。「これがやりたかったのよ」。松田さんの出発点は21年前にさかのぼる。
産後、腱鞘(けんしょう)炎とぎっくり腰で、赤ちゃんを抱っこもできない。つらかった。でも、産前産後の支えも、母親同士が話せる場所もなかった。地元町会に頼んで部屋を借りた。おしゃべりが楽しかった。いつのまにか50組に。自分のために作った場所が、みんなの場所になった。自分と同じような母親を支える場所を作ることにした。
2001年、産後の女性宅を訪ね、冷蔵庫の素材で食事を作るなど家事を手伝う事業を有償で始めた。でも自分たちだけでは限界がある。「制度にしてほしい」と区役所の窓口に掛け合った。
ところが、思わぬ反応が返ってきた。「毎年、区内には6千人の赤ちゃんが生まれている。全員を訪問できますか?」。行政はそういう発想なんだ、と目が覚めた。「自分たちのミクロな声をマクロの制度や予算に反映できるようにしないといけないな、って」
ちょうど、親子の居場所を作る動きが各地で出ていた。05年、仲間がつながり「4つ葉プロジェクト」を作った。子育ての予算を医療、介護、福祉と並ぶ四つ目の柱にしてほしい。
松田さんは事務局に加わり、親たちの願いをイベントやブログで発信した。
やがて子ども・子育て支援法が12年に成立、消費税引き上げ分を恒久財源に、政策として子育て支援が動き出した。
忘れられない事件がある。06年に埼玉県で24歳の母親がスノーボードに出かけ、家にいた2歳の長男が火災で亡くなった。虐待などの兆候はなく、制度上はリスクのない家庭。
「どこかで私も出会っていたかもしれない。誰かが気づいてあげていたら」。その思いで活動し、形になったのが、区独自の「地域子育て支援コーディネーター」だ。区が委託し、地域の人が悩みの聞き役となる。いま約100人。「子どもは家と学校だけじゃない、街の中にいるのよ」
制度や予算は大事。でも陳情して熱弁をふるうだけじゃ届かない。「『こうしたらできるよ』って形を示したい」。そう話す間にも「焼き芋できたよ、食べてって」とナンパが始まった。
声を代弁、国会の場で
打越さく良さん
うちこし・さくら 1968年生まれ。
弁護士。DV、選択的夫婦別姓訴訟などに関わる。2019年参院選新潟選挙区の野党統一候補として初当選。
「打越さん。なんで議員にならないの」。知り合いの国会議員から言われた時、「え? 私? 弁護士が天職ですから」と笑い飛ばしました。でも、しばらく考えてしまって。国会を見渡せば世襲議員ばかりです。夫の暴力から逃げられない女性たち、貧困や虐待に苦しむ子どもたち。これまで聞いた彼らの声を、私が代弁しなきゃいけないんじゃないか。そう思い立ちました。
51歳。挑戦するには、体力も気力もある今しかないと思いました。逆に、もっと若かったら、弁護士をやめることはなかったでしょう。選挙戦になると「無表情すぎる」「データはいらない」と叱られました。後になって障害児の母親や非正規社員の女性、介護で苦労している女性などから声を掛けられ、SNSにメッセージをもらいました。届いてほしいと思った人に届いたことがうれしかった。
弁護士として、困っている女性を勇気づけるのはとてもやりがいがありますが、これからは予算や制度を良いものに変えることで、力になりたい。今、党のDVについてのワーキングチーム事務局長として、現場で支援をしている人たちの話を聞いたり、省庁の担当者から予算や制度についての説明を聞いたりしています。
一議員としてできることは多い。英語民間試験に、収容先でハンガーストライキをして亡くなる外国人の問題も。会合や国会の委員会で、何を質問しようか、どう追及しようかと、朝から晩までめまぐるしい日々です。
女性たちの声は政策に生かされたか
朝日新聞2019年11月24日掲載
記事・写真=三輪さち子 デザイン=高山裕也