AG世代がいちばん話したいこと
地域のみんなで、子育てと食を応援
「いまある支援」と「広く深い予防」をもっと!
Special ライフスタイル キャリア ジェンダー 子育て
[ 22.04.13 ]
松田妙子さんたちが12年前、「子どもたちと一緒に大きくなぁれ」という願いを込めて植えたモミの木は、大きく育ちました=東京都世田谷区
40代と50代、Aging Gracefully(=AG)世代の日本の女性たちの生き方は、どんどん多様化しています。最も多いライフコースは「専業主婦」だという調査結果がありますが、それでも4割に満たず、家族の形も働き方もさまざまです。
「AG世代がいちばん話したいこと」は、そんなAG世代の女性たちが、いま最も伝えたいこと、生の声をお届けします。
NPO法人「せたがや子育てネット」代表理事の松田妙子さん(52)は、東京都世田谷区で子育て支援に取り組んで20年余りになります。産前産後の母子のケアに力を注ぎつつ、 親子で集う「おでかけひろば」や、食料を支援するフードパントリーで日々忙しく過ごしています。
――「おでかけひろば」ではどんな活動をしていますか?
世田谷区のおでかけひろばは国の地域子育て支援拠点事業で、私たちが運営するひろばは区内に四つあります。スタッフは50人ぐらい。小さな子どもがいたり、親の介護を抱えていたりしてパートで働きたい人たちが多く、みんなでシェアしながら働いている感じです。 フレキシブルにシフトを替えられるから働きやすいし、50代が結構多いかな。
四つのひろばのうち2カ所は相談事業所を併設していて、ほかにもうひとつ相談事業所があります。ここでは、「引っ越してきたばかりで何もわかりません」とか、「下の子が産まれるんだけど、上の子の預け先をどうしたらいいですか」とか、よろず相談を受けています。保健師さんから「ちょっとこの方、心配なんです」と連絡があると、その人に近いところでつながりができるようにサポートするとか、いろいろな相談がたくさん寄せられます。
「おでかけひろば ぶりっじ@roka」は2022年5月に12周年を迎えます=世田谷区南烏山
――コロナ禍で変化はありましたか?
2020年の4~5月にひろばを休んだほかは、6月以降は今まで、2年ぐらい休んでいません。人数制限をして予約制で、換気をして、午前の部、換気、消毒、午後の部、消毒。以前は多いときは30組ぐらいが来て一緒に遊んでいたけど、今は4~5組とか。 「それでもいいから誰かと話したい」と言ってくる人もいて、本当にしんどい人のために枠を空けておくこともあります。消毒を徹底しているからスタッフは大変だけど、慣れてしまえばルールみたいなものだし、スタッフが地域の人たちなので、みんなで知恵を出し合っています。
ただ、夫から妻への DVの相談が増えたと実感しています。もともとあったんだろうけど、見えにくかったものが、コロナで見えやすくなった。例えば、テレワークで家にいる夫に全部の行動をチェックされて「だからお前はダメなんだ」と言われたとか、子どもに障害がある家庭では「お前の育て方が悪い」と夫に責められたとか。
おでかけひろばが毎日開かれているときは良かったんだけど、今は予約制で人数制限もあるし、簡単には来られない。 インターネットで情報を得るにも、自分が気づかないことは抜け落ちちゃう。いろんな意味で獲得できてないものがこの2年の間にすごくあると思います。子どもは人の間で育てるものなのに。最近も、初めてひろばに来た赤ちゃんが、普段は大人しか家にいないから、ほかの赤ちゃんを見て「これは何?」みたいにびっくりしていたことがあって、これからコロナの影響がどう出るのかが心配になります。
「お互いさまだから」
――フードパントリーではどんな活動を?
私たち「せたがやこどもフードパントリー実行委員会」は、コロナ禍で家計がピンチになって困っているご家庭を、ささやかですが食べ物で応援しています。郵送すると直接会えないので、取りに来てもらう形をとっています。何月何日に区内4カ所でやるから都合のいい場所に来てね、と。申し込んでもらって、集計して、発注したり集めたりして袋分けして、来た人に渡します。
お米2キロとか、子どもだけでレンジでチンして食べられるレトルトのご飯とか。ゼリーやフルーツは、普段の買い物では優先順位が低くて食べられない子どもたちもいるので、必ず入れます。野菜もブロッコリーとかキャベツ1個とか。防災用の備蓄が放出されたタイミングでもらったり、企業が寄付してくれたり。 小学校が体験農園で野菜を植えていて、コロナで授業ができなくて掘れなかったジャガイモや大根をみんなで掘りに行ったこともありました。パントリーの費用は、寄付していただく以外は国や民間の助成金。うちは1回で400人ぐらいに渡すので、1回だけで30万~40万円かかる。大きな団体と思われて、逆に助成金をもらえなかったこともあります。
「子どもの貧困」と言った瞬間に、みんなスイッチが入る。フードパントリーは本当にみんなが共感して、寄付の集まり具合も全然違います。ただし「やってやる」みたいな申し出もあるので、そこは注意深く見ます。 来る人たちも決して気持ちよく来ているわけじゃない。最初は後ろめたい、恥ずかしいという感情があって、顔を隠して来る人もいる。でも、これはお互いさまの活動だから、困ったときは頼っていいんだよ、と私たちは言っています。
2019年11月、地域防災のイベントで住民たちと笑顔で話す松田妙子さん(右奥)=世田谷区、鬼室黎撮影
「壁ドン」はDVに近い
――いま一番伝えたいことは?
ボランティアは素晴らしいけれど、セーフティーネットあってのボランティアだと思うので、子どもが生まれてくるところからもっと母子を守ってほしい。望まない妊娠の場合もあるし、女性として扱われ方がひどいケースもある。例えば「壁ドン」は、「俺様」がやるものだから、DVに近いと思うんですよ。AV(アダルトビデオ)における女性の表現も目をそむけたくなるほどひどいし、世界経済フォーラムが毎年公表する「ジェンダーギャップ指数」によると、2021年の日本のジェンダーギャップは156カ国中120位という低さです。女性が子どもを産むという命がけの部分と、子どもが育つ部分はセットで大事にしなきゃいけないと思っています。
子どもの権利、と言うけど、子どもを守る立場の人が自分の権利に気づいていないこともあるし、 保護者が自分を大切にできないと、子どものことも大切にできない。優しくしてもらったことがなかったら優しくできない。価値観が違うと受け入れるのは難しいけど、「あなたはそう思っているんだね」と受け止めてくれる人は必要。私たちはいつも、 保護者は子どもの最大の環境、と言っているんです。
少し前、「こども政策の推進に係る有識者会議」のプレゼン用に、イラストレーターの丸山誠司さんにお願いして、「『いまある支援』と『広く深い予防』をもっと!」というイラストを書いてもらいました。
深くて暗い海で、救助が間に合わなくて、たまたま見つけてもらえて浮輪を投げてもらった人がいる一方で、見つかっていない人たちがいっぱいいる。ライトは財源を指していて、財源が小さいと見つけられない。浮輪はサービスで、その人にぴったりの浮輪ならいいけれど、投げ方が悪かったり、投げる種類が違ったりするとつかめない。そもそも困ってから浮輪を投げるんじゃなくて、最初から全員がライフジャケットを着ていればいいんじゃないか……。地域はこんな感じなんです。
「『いまある支援』と『広く深い予防』をもっと!」のイラスト=松田妙子さん提供
制度にはまらないことで困っている人が多くて、ぴったり合わないと「それは違います」「役所でできることはありません」と言われる。その人にとって必要なことじゃなく、役所でできることで判断されて、隙間ができてしまう。
ただ、食の支援で行政がやれることには限界があるし、貧困のない社会を作るのが行政の役割だから、それはやってほしいし、行政にはもっと民間と連携してほしいと思っています。そして、セーフティーネットも、子どもをベースに作ってほしい。結局最後は財源の話になってしまうんですが、予防に予算をつけるべきだと思います。
「勉強して本当に良かった」
――この春、大学院の修士課程を修了したそうですね。
以前から、社会福祉の視点で調査やヒアリングの手法を学びたかったので、50歳で入学して、社会福祉学を専攻しました。出産・子育てを経たり、いろんな仕事をしたりした後に、勉強することが当たり前になったらいいな、と思います。
福祉の現場にいるからこそ、学びたくなることもあるので、勉強して本当に良かった。いろんな先生と出会えたし、アメリカのソーシャルワークに関する英語の論文を訳して読むとか、日常では絶対やらないけど、自分たちの仕事に直結するものがあるんですよね。
本当は仕事をバリバリやりながら、週2日ぐらい休みをとって学校に行けるようになればいいなぁと思います。30~40代は難しくても、50代になれば自分でお金を貯めて行けるし、複線的な働き方ができるようになる可能性もある。夫や家族を気にしないで、自分の好きなことをやろうよ、と言いたいですね。
- 松田妙子(まつだ・たえこ)さん
- 1969年、東京都生まれ。3人の子を育てながら、東京・世田谷で産前産後の母子のケアを中心とした支援を展開。現在は子育て支援者の養成や地域のネットワーク化に関わる子育て支援コーディネーターとして活動中。子育てひろば全国連絡協議会理事。NPO法人「せたがや子育てネット」(https://www.setagaya-kosodate.net/)代表理事。
取材&写真&文=朝日新聞社 Aging Gracefullyプロジェクトリーダー 坂本真子
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