Dr. Hisamichi の Keep On Walkin’
スペシャル対談 Vol.5〈前編〉
山田メユミさん、健康との向き合い方はビジネスと同じ
「短距離走」でなく「持久走」で
Special ヘルスケア 学び ライフスタイル キャリア スポーツ 更年期 対談
[ 23.01.18 ]
26歳の時に「@cosme(アットコスメ)」を立ち上げ、日本最大のコスメ・美容の総合サイトに成長させた山田メユミさん。現在は経営者として数多くの企業に関わるほか、経済的に恵まれない女性たちに化粧品を届けるプロジェクトを立ち上げるなど、幅広い活動で多忙な日々を過ごされています。今回、以前から痛みに悩まされてきた山田さんの足を「下北沢病院」の理事長・医師、久道勝也先生が診察。更年期にさしかかるAG世代の「足病」をテーマに話し合いました。対談の模様を2回に分けてご紹介します。前編は足の健康に関する情報についてのお話です。
- 久道
- 当院で取り組んでいる「足病医療」という領域は、日本ではまだ一般的ではありません。ですが、人間が弱っていく過程は、まず歩行ができなくなることからだと言われています。次に排泄がうまくできなくなり、食事が取れなくなり、亡くなる。この歩行、排泄、食事は、高齢医療の三段階とされています。第一段階が歩行であることを考えると、超高齢化社会の日本に足全般に関わる医療が広がっていないことは、大げさに言うと国家的損失ではないかと考えています。
- 山田
- 多少歩きにくくなっても、病院に行っていないという方は多いだろうと思います。
- 久道
- そうですね。潜在的な患者が多いにもかかわらず、医療の領域としてはマイナーな足病医療を世に知っていただくことが現在の私のテーマです。ですから今回、山田さんのように一つのコンセプトを世に広めた経験のある方にお話を聞くのを大変楽しみにしていました。1999年に化粧品の口コミサイトとしてアットコスメを立ち上げられましたが、コンセプトを世の中に伝えるポイントは何でしょうか。
- 山田
- これまで表立って語られることの少なかった更年期に対する関心が、近年になって急速に世の中に広がっているように感じます。「これだけ多くの人が同じように悩んでいるんだ」という情報を見聞きするようになって、「自分も言っていいんだ」「自分だけじゃないんだ」と思う方が増えていますよね。足の悩みもそれと似ているのではないでしょうか。足の悩みについても悩んでいる人がこれだけいるというのが見えやすくなるといいと思います。
- 久道
- 多くの方が経験する更年期が昨今多く取り上げられていますが、確かに足も同じですね。
- 山田
- 各種の検診が「足の痛みは我慢するだけではなく治療法がある」と気づくきっかけになればいいですよね。例えば人間ドックの中で、50歳以上は歩行についての項目を組み込むのもいいかもしれません。私自身、これまで足の痛みは訴えていいという認識を持っていませんでした。「痛いのは若い頃ハイヒールを履いていた自分のせい。手術するのも怖い」と、病院に行くという発想がなかったんです。
- 久道
- 実は、足の健康が人生を決めるというデータも増えています。一昨年論文になったのですが、イギリスで47万人を10年調べたデータがあります。筋力と肥満と歩行速度のどれが一番寿命に関連するかという研究の結果、一番長生きだったのは、筋力や肥満に関係なく、歩行速度の速い人だったんです。一方、一番寿命が短かったのは、痩せていてゆっくり歩く人で、その差は15歳から20歳くらいありました。つまり、歩行速度が圧倒的に決定的な因子で、歩行速度と寿命がダイレクトに関係することがデータから証明されました。しかし心配なことに、現在コロナ禍で歩行速度どころか歩行量がものすごく落ちています。他の先進国では後期高齢者の歩行量が落ちているのですが、日本では中高年が一番落ちています。
- 山田
- 今は便利になってスマートウォッチやスマートフォンでも歩数や速度はわかりますよね。
- 久道
- かなり精度が高い製品も増えていますよね。当院もいくつかの企業から歩数や歩行速度に関する相談を受けているんですよ。
- 山田
- 足の健康に関する情報に関しては、私は外反母趾(ぼし)に悩みがあるのでいろいろとネット検索しますが、集約されていて信頼できる情報にたどりつくのは難しいと感じています。本来ならば我々がアットコスメでやってきたように、様々な情報の中から「あなたにはこれが良いですよ」と薦めてもらえるといいのでしょうが、医療系の口コミサービスはなかなかうまくいっていません。「クリニックに行こう」という意識づけになるような情報は少ないですね。
- 久道
- 足の悩みから通院につながる情報ですね。寿命や健康寿命の話だと、なかなか自分ごととして捉えにくいので、山田さんがおっしゃるようにその手前でどうアピールするかがポイントです。山田さんはアットコスメを立ち上げた際に、手応えを感じた瞬間はあったのでしょうか。
- 山田
- 1999年の創業当時はインターネット人口が増えつつある時期で、従来型の、企業が消費者に一方通行で伝えるだけという情報の流れが、ネットの出現によって変わりつつあるという肌感覚がありました。当時私は26歳で、化粧品メーカーに勤めるかたわら趣味で化粧品に関するメールマガジンを配信していたのですが、急に多くの方からレスポンスをいただくようになったんです。
- 久道
- そこにニーズがあったわけですね。
- 山田
- 利害関係のない、エネルギーにあふれた生の声だったので、「こんなに声を発してくれる人がたくさんいて、それがインターネットを介して物理的、時間的な障壁もなく、全国区、ともすると国を超えて声が寄せられるんだ」と素直に感動して、何か形にできないものかと考えたのがアットコスメだったんです。女性に役立つコスメガイドになるのはもちろんのこと、ある程度の規模になると企業にとっても無視できない消費者発信のデータベースになると考えました。
- 久道
- 「これはビジネスになるな」という感覚はある程度最初からあったのですか。
- 山田
- きっかけは無意識でしたが、サービス化する際はビジネスモデルを議論しながら緻密に作り上げていきました。一緒に創業した仲間たちがコンサルタント業界出身だったのでそれぞれの視点から「こうあるべきだ」というディスカッションを重ねていきました。私からすれば業界内の商慣習ととらえていることを外からの視点で「これって変だよね?」と指摘してもらうことができ、ブラッシュアップしていったんです。彼らも前の会社を退職して腹をくくって創業しましたので、そういう意味では戦友でした。
- 久道
- 腹をくくってからビジネス化まで、どのくらいの期間で成し遂げたのでしょうか。
- 山田
- 事業計画を作りはじめて法人化まで数ヶ月間で一気に進めました。それからはもう目の前のことに必死で、つらいとも思わず全力疾走している感じが10年続きました。
- 久道
- 10年全力疾走すると健康にも影響が出そうですね。
- 山田
- そうなんです。30代半ばくらいにはたと気づきました。健康不安を感じるようになりましたし、その時たまたま婦人科系で指摘を受けたこともあって、考え方を変えなければ、と。「短距離走」ではなく「持久走」で走るためにはどうすべきかを考えるようになりました。
文=草刈康代
写真=家老芳美撮影
- 山田 メユミ(やまだ めゆみ)さん
株式会社アイスタイル取締役/共同創業者 一般社団法人バンクフォースマイルズ代表理事
1972年、福岡県生まれ。95年、東京理科大学基礎工学部を卒業後、化粧品メーカー勤務を経て、99年に「アットコスメ」の運営会社となるアイスタイル社を共同創業。「Forbes JAPAN」が主催する『Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2017』の個人部門で「グランプリ」を受賞。経済産業省や総務省の審議会委員を歴任。セブン&アイ・ホールディングス、SOMPOホールディングス、セイノーホールディングスなど複数の企業の社外取締役を務める。2021年には一般社団法人バンクフォースマイルズを設立し、生活に苦しむ女性たちに化粧品を届ける「コスメバンクプロジェクト」に取り組む。
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