AG世代がいちばん話したいこと
母親同士で応援しあえる仲間を作りたい
ゆるくつながり「自分らしく生きよう」
Special ライフスタイル キャリア 子育て
[ 23.02.15 ]
40代と50代、Aging Gracefully(=AG)世代の日本の女性たちの生き方は、どんどん多様化しています。最も多いライフコースは「専業主婦」だという調査結果がありますが、それでも4割に満たず、家族の形も働き方もさまざまです。
「AG世代がいちばん話したいこと」は、そんなAG世代の女性たちが、いま最も伝えたいこと、生の声をお届けします。
子どもがいても、母親としてだけではない自分自身の人生を楽しみたい。「母親を、もっとおもしろく!」をテーマに、母親アップデートコミュニティ(HUC)を立ち上げた鈴木奈津美さん(42)。「なつみっくす」という愛称で、母親も自分らしく生きることを伝える活動をしています。HUCは、2023年1月23日で4周年を迎えました。母親同士がゆるくつながっていくコミュニティを立ち上げた思いを聞きました。
――どうして、母親たちがつながるコミュニティを作ろうと思ったのですか?
私は35歳で息子を産んで、育休に入りました。誰とも会わないような日々は私にとって初めての経験で、今まで想像できなかったような孤独や寂しさを感じました。赤ちゃんはもちろん可愛いのですが、社会から断絶されているような気持ちになって、不安を感じました。
当時は「保育園落ちた日本死ね!!!」という匿名ブログの投稿が話題になるなど、待機児童がピークのときでした。私も保育園を30園ぐらいまわって探しました。息子を産んで半年、0歳の4月から保育園に入園して、仕事に復帰しました。
――息子さんが0歳の時から、仕事に復帰したことは大変でしたか?
もう、一生懸命でしたね。夫とどう分担するか、実家の母を頼りにして、両立できる方法を模索しました。私は仕事を選ぶときから、女性でも活躍し続けられる会社に入ろうと思って、外資系の企業を選びました。女性のリーダーがいて、ここなら大丈夫と思って仕事していたのですが、40代になる頃、もやもやと閉塞感を感じました。
――どんなことに、もやもやを感じたのでしょうか?
男性と同じように仕事をしようと思っても、子どもが熱を出せば、最初に連絡が来るのは母親。保育園に送るのは夫でも、迎えに行って、帰宅して急いで料理を作って食べさせるのは私。
夫は同じ会社で働いていたので、ずっと対等に働いてきたのに、なんで私ばっかりが負担しているんだろう。育休を取って私が8対2で育児をやってきたところから、どのぐらいの割合で夫にやってもらうのか、協力してもらったらいいのか、と考えてきました。でも子どもが4歳ぐらいになる頃に、しんどさが重なって爆発したときがあるんですよ。
――これ以上、頑張れないという感じだったのですか?
「仕事で疲れて帰ってきて、スーパーで買い物して、料理も作って、もう、しんどいんだけど!」って、夫にぶつけました。そうしたら夫が、「えっ、なんで。料理作らなくてもいいし。レトルトでもお総菜でも買って、できることをして、それぞれが食べればいいよ」と言ったんですよ。衝撃でしたね。「きちんと作らないと」って思っていたのは、勝手に私が思い込んでいただけなんだ。家事育児は5対5でやればいい、と夫は思っていたんですよ、最初から。私の勝手な思い込みで、疲れてイライラしていただけだと気がつきました。爆発したけれど、拍子抜けしました。
自分を縛っていた閉塞感
――女性がやらないといけない、と自分自身を縛っていたところがあったんですね。
私の母はインテリアデザイナーをしていたのですが、子どもを産んでから、やりたいことを諦めて専業主婦になりました。父は家父長制の考え方だったので、家の中では上下関係がはっきりとしていて、そのことで、けんかが絶えない家庭に育ちました。結局、母はシングルマザーになりました。
だから私は、女性も仕事をして自立して、人生の主導権を持てることが大事だと思って育ちました。会社に入るときも、女性が生き生きと活躍できることを一番大切にしたいと思って、女性が社長の外資系の企業に入りました。それでも40代になると、リーダーは男性が多くて、頭打ちのように感じてきました。辞めていく女性も増えて、ガラスの天井のようなものがあるなぁと。その閉塞感をぶち破ろうと、ブログを始めました。
――どうして、ブログだったんですか?
母親って家事も育児もできて当たり前。できないと問題、という減点主義の世界。毎日が育児に追われて終わってしまう中で、自分と向き合う時間を、意識しないと取ることができないなと思ったんです。それで、朝5時に起きて、ブログを書くことを決めました。朝の1時間で、読んだ本とか聞いたセミナーのこととかを書いていました。自分の学びのメモを書いていた感覚です。その時間だけは自分だけの時間なので、単純にうれしかった。だから毎日、書き続けました。
――毎日! すごいですね。
母親としての違和感を何とかしたかったんだと思います。小さな世界に閉じこもっていたけれど、書いて発信をすることで、「できた!」という達成感を感じるようになったんですよ。書くことで、一歩ずつ、新しいことができるようになっていきました。それが私を変えるきっかけになりました。
それがあったから、経済webメディア「NewsPicks」が主宰する「母親をアップデートせよ」という番組の観覧に行くことも決められたんですね。「あ! これだ」と思って。そのイベントでは、一番前に座って積極的に参加できたんです。
HUC4周年のイベントで=鈴木奈津美さん提供
「悩んでいるのは私だけじゃない」
――その番組を観覧したことが、HUCの始まりになったんですよね。
その番組には、母親としての課題を感じている人が集まっていました。いろんな人が、どうやってもやもやと感じている問題を解決しているのかを話していて、「あ~、悩んでいるのは私だけじゃないんだな」と思えました。ゲストで来ていた「花まる学習会」代表の高濱正伸さんが、「母親同士で応援しあえる仲間がいたらいいね」と言ったので、私は思い切って「コミュニティを作ります!」と手を挙げました。
――それがきっかけとなって、実際にコミュニティを立ち上げたのですね。
最初の1年の立ち上げ期は、がむしゃらでした。いろいろな年齢の人がいて、全国のさまざまな地域の人がいて、やってみたいということに取り組みました。読書会をやったり、ゆるっと語る会を開いたり。ただただ、楽しかったです。地元にママ友がいる人も、子どもを通してつながっていて、なかなか自分を主語にして話せないことも多いと思うんです。
ある集まりで、「自分の好きなことを話す」というテーマのときに、「自分の好きなことを考えてもいいんですか」と言った方がいたんです。子どもが生まれてからずっと、子どもを優先して、自分の好きなことなんてあきらめてきた。自分に目を向けてこなかったんです。その言葉を聞いたときには、涙が出ました。自分のことを話せる場があって、仲間がいることが大事だなと思いました。
――その言葉はハッとさせられるし、泣けますね。
そうなんです。母親としての尊さと、でも、そのことを当たり前にしている社会を変えなくてはと思いました。母親としての自分以外にも可能性があるのに、気がついてない。枠の中でしか考えられていないことに、自分自身で気がつく必要があります。自分で自分を肯定することは、1人では難しい。誰かと話していて、聞いてくれる人がいて、自分の価値に気がつける。このコミュニティで、そのきっかけを与えたいです。母親をもっと面白くしたい。母親であっても、自分の人生を面白く生きていきたいと考える人が、1人でも増えるようにしたいです。
――そんなコミュニティを育ててきたんですね。
2年目からは一般社団法人にしました。活動の幅を広げて、外に向けても発信したいと考えました。土台固めをして、誰でも入れる仕組みを作り上げました。やりたいことが増えてきました。イベントや学びのプログラムなども、もっとやっていきたいんです。
自分らしく生きられないのではないかと、将来に漠然とした不安を抱えている女性が多いと思います。どう行動したらいいのかわからないと、可能性にふたをしてしまっていることがたくさんあります。不安があることも自分で考えて、正解のない問題に答えを出す必要がある時代です。子どもにもそんなことを言っているんだから、母親もそうしなくちゃ(笑)。
そのためにはみんなで学んで、考える翼を身につけて、自信を持って空を飛べるようにしたい。このコミュニティで、ふたが外れていくような活動を、もっとやっていきたいです。
- 鈴木奈津美(すずき・なつみ)さん
- 1980年、東京生まれ。2019年に「母親を、もっとおもしろく。」を掲げて、母親アップデートコミュニティ(HUC)を立ち上げた。「なつみっくす」の愛称で活動。2020年に一般社団法人「母親アップデート」を設立して代表理事に。全国から約200人を超える有料会員のコミュニティを運営。職業は元・外資系大手IT企業でエンジニア、マーケティング担当。2022年秋にモビリティ関連の会社に転職。
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母親アップデートコミュニティ(HUC)サイト
https://haha-update.com/
取材&文&写真=朝日新聞社(AGサポーター)平岡妙子
- 平岡 妙子
- 朝日新聞記者として社会部やAERA編集部で主に教育担当。子どもの学びと習い事のサイト「みらのび」元編集長。子どもが2人。
「ウクレレを久しぶりに再開。いつかのんびりハワイで弾いてみたい」
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