坂本真子の『音楽魂』
未唯mieさんインタビュー〈後編〉
年齢を重ねることは怖いことじゃない
「音楽は私の生き様、するべきこと」
Special 音楽 ライフスタイル
[ 23.03.08 ]
最近、音楽を聴いていますか。
振り返れば、あなたにもきっと、歌やメロディーに励まされ、癒やされた思い出があるはず。40代、50代になっても、これからもずっと音楽と一緒に過ごせますように。
そんな願いを込めて、子どもの頃から合唱曲やロックを歌い、仕事でも関わってきたAging Gracefullyプロジェクトリーダーの坂本が、音楽の話をお届けします。
歌手の未唯mieさんが、オールタイム・ベスト「MIE to 未唯mie 1981-2023 ALL TIME BEST」を「未唯mieの日」である3月1日に出しました。4月にはピンク・レディーのテレビ番組やライブの映像をDVD6枚にまとめた「Pink Lady Chronicle TBS Special Edition」も発売される予定です。そんな未唯mieさんに、歌うことや年齢を重ねることへの思いを聞きました。インタビュー後編では、生き方や体のケアなどについて語ります。
ピンク・レディーとその後のソロ活動を続ける中で、未唯mieさんは、30歳ぐらいまで「趣味も仕事」のような状態だったそうです。
「当時のマネジャーさんが『少しは気持ちを緩めたら?』と言って、ご自分のテレビゲームを持ってきて、私のテレビにつないでくれたんです。最初は全然興味を持てなくて、しばらくほったらかしにしていたんですね。ある日、私が支度をしているときに、マネジャーさんが『桃太郎伝説』をやり始めたんです。チラチラと見ながら支度をしていたら、なんか面白そうだなと思って、やり始めたらハマっちゃったんです」
「桃太郎が成長して鬼退治に出かけて、どんどん年をとるんですね。早く桃太郎をおじいさんとおばあさんのところに帰してあげなくちゃと一生懸命頑張って、おうちに戻って『おじいさん、おばあさん、ただいま』と言ったときに、『やっと帰してあげられた』と号泣しました。それからロールプレイングゲームが大好きになって、ドラゴンクエストとファイナルファンタジーのシリーズは全部持っていて、今でもやっています」
そんな未唯mieさんは普段どんな音楽を聴くのでしょうか。たずねてみると、少し意外な答えが返ってきました。
「私ね、音楽を聴くのは趣味じゃないんですよ。プライベートではテレビゲームをしているか、Netflixで映画やドラマを見ているか、そういう方が好きですね。3、4年前に中国のファンタジー時代劇『陳情令』を見てハマって、中国の時代劇を一気に見て、そこから韓国やアジア系の時代劇、ファンタジーものを見まくりました」
音楽を聴くことが趣味ではない、という言葉の裏には、未唯mieさんの真剣な思いが隠されていました。
「音楽は私の生き様であり、私がするべきことであって、楽しむものではないんです。私にとって音楽は、『何を聴こうかな』じゃなくて、『よしっ!』と気合が入る感じ。『これをどう表現してお伝えしようかな』という方向に考えるので、カラオケで歌うこともそんなに好きじゃないんです」
「両親ともに厳しくて子どもの頃は怒られてばかりいて、こんなにダメな自分は生きている意味があるんだろうか、世の中の邪魔になるんじゃないか、と思っていたんですけど、歌と出会って、音楽と出会って、そういうものを借りて自分を表現することによって、私もここに生きていていいんだ、と思うことができました。もう一歩踏み込んで、何かもっとお役に立てることがないかな、と考えることも楽しくなりました」
トレーニングはお風呂場で
未唯mieさんは、歌うために毎日欠かさず体を整えています。
「ライブ活動を始めてから、私もミュージシャンの一人としてそこにいたいと思うようになりました。楽器である体を鳴らすためにどうするかを考えてトレーニングしています。例えば、バイオリンでは弦と弓の接着したところが人間ののどに当たります。でも鳴っているのは楽器自体。私が歌うときも、楽器のボディーは私の体。体全体が鳴るように、響くように訓練をしています。そのためには横隔膜をキープしたり少しずつ持ち上げたりするための筋肉、そして声帯の筋肉もしっかり鍛えないといけないので、毎日トレーニングをしています」
こうしたトレーニングを、未唯mieさんはどこで行うのかというと……。
「乾燥がのどによくないので、お風呂に入っているときにやることが多いですね。簡単なウォーミングアップは15分から20分ぐらい。自分の弱いところを訓練するメソッドをやって、最後は大きい声、高い声で出るところまで。ライブが近いと1時間から2時間やります。曲の練習も含めると、もう少し長くなることもあります」
実は運動が大嫌いだという未唯mieさん。スポーツ全般に苦手だそうで、スリムな体形を保つためのウエイトコントロールは、やはりお風呂がカギを握っていました。
「20代や30代の頃、お休みで私と連絡がつかないと、よく知っているスタッフは『ずっとお風呂場にいるから連絡つかないよね』と言っていたぐらい、お休みの日は浴室に一日中いました。汗をかいたり、ウエイトコントロールをしたり、毛穴の汚れを出したりして、トリートメントして何か使って……とやっていると、一日中お風呂にいられたんです。50代ぐらいまでは入浴でウエイトコントロールをしていましたが、60代になって変わりました。1、2時間入浴するとやせるけれど、顔もげっそりしちゃうので、これは良くないと気づいて、30分ぐらいに短くなりました」
その分、食事に気をつかっています。
「野菜から先に食べるとか、たんぱく質から食べるとか、食べる内容や順番、油の質や塩分も50代ぐらいからすごく意識するようになりました。食事を気にするようになってから、外食をあまりしなくなりましたね」
同時に、やせ過ぎにも注意するようになったそうです。
「歌手の吉田美奈子さんに『いい歌を歌いたい』と話したら、『そのおなかじゃやせ過ぎ。この辺がしっかりした方がふくよかな声が出るのよ』と言われたんですね。それで、少し太ってもいいのかなぁ、と思って以前よりは緩くしています」
日舞は名取に、次はギターを
未唯mieさんは2021年、日本舞踊の五世花柳流宗家家元花柳壽輔より花柳舞千鳥の名を許され、名取となりました。
「コロナ禍で家から出られないとき、最初はゲームで遊んでいたんですけど、それでは時間がもったいないと思ったんです」
未唯mieさんは2010年から毎年、「新春 ”Pink Lady Night”」というライブイベントを開催しています。パーカッショニストの仙波清彦さん率いる「はにわオールスターズ」と和楽器隊の演奏に合わせて、大胆にアレンジされたピンク・レディーの曲を未唯mieさんが歌い踊るという催しで、このときの衣装は着物です。
「着物を毎年着るなら所作がきれいになるように、と思って日舞を習い始めたのがきっかけです。せっかく習っているなら頑張ろうと思って、名取になりました」
昨年夏からは、ギターを弾き始めました。
「学生時代のお友達とアマチュアバンドをやりたいなと思ったんです。自分で演奏するならギターでも始めるか、と思って、せっかくギターを買うならわかっている人に教えていただこうと思ったんですね。ギタリストの吉川忠英さんと親しくさせていただいていて、『ギターを選んでもらっていいですか』とお願いしたら、『弾けるようになるようにレッスンをしようか』と言ってくださったので、今、事務所にときどき来てもらってアコースティックギターのレッスンを受けています」
そんなギターのために諦めたことも。
「40年伸ばしていた爪は諦めました。24歳のときからプロに手入れしてもらって長い爪をキープしていたんですけど、ギターのためにバッサリ。忠英さんに習っているのにアマチュアバンドで弾くなんて言っていられないと思って、いつかライブでご披露できるように頑張らなきゃと思っています」
「自分を大事に、良いところを見て」
未唯mieさんは3月9日に65歳の誕生日を迎えます。
「年齢を重ねることは楽しいですよ。若いときは、衰えていく自分にプロ歌手としてどう向き合っていくかという不安もありました。でもいろいろ知ることによって変わってきました。例えば、ジャイロトニックという、インナーマッスルを鍛えて調整するトレーニング方法があるんですけど、それを10年やって、今はボーンメソッドという、関節を正しく使ってあげることでインナーマッスルを意識するというトレーニングをやっています。体に無理な力を使わせないので、故障しにくくて疲れにくい体になっていくんです」
「年齢に関係なく、体と向き合って上手に使ってあげれば、ますます元気になるし、やりたいことがやれる自分になっていく。もちろん、枯れる部分や衰える部分もありますけど、そこは追究せず、今までできなかった、注目していなかったところを鍛えて、より魅力的になったことに着目していくと、30代より今の方が素敵だと思えるんです。だから、今の自分をすごく楽しめていますね。30代よりも40代よりも50代よりも、今が一番楽しい。こんなこともできる、こんな風に感じられる、こんな考え方ができる私になっている、ということが楽しいですね」
女性にとって40代、50代は、更年期など体の変化に直面したり、子育てと親の介護を両方抱えたり、責任のある仕事を任されたりと、心身に負担のかかる忙しい時期でもあります。
「例えば、衰えたり老けたりしてしまうことに恐怖を感じていらっしゃる方に向けて、『私のまま〜maybe it's a life』という曲を作ったんです。年齢を重ねることは怖いことじゃないよ、というメッセージを込めました。自分のダメなところではなく、良いところを見てあげる。もし弱いところがあったら、そこを強化するにはどうしたらいいかとか、自分を喜ばせることにフォーカスすればいいと思うんです」
「私のまま〜maybe it's a life」は、2007年のアルバム「me ing」に収録された作品で、今回のオールタイム・ベスト「MIE to 未唯mie 1981-2023 ALL TIME BEST」にも収録されています。
「大変なことを全部抱え込まないで、できることをすればいい。ため息が出ちゃうようなことは外していく。介護にしても、自分の手でできれば素晴らしいことでしょうけれど、全部を一人で抱え込まないで誰かの手を借りるとか、施設などを利用するとか、上手に自分を守ってほしいと思います。自分が幸せや喜びを感じていないと、お年寄りも子どもも、お世話している相手に良い影響はないと思うんですよ。自分が楽しくて幸せだからこそ、お世話している方にも喜びを伝えることができるし、子どもたちも幸せに育っていくと思うので、まずは自分をかわいがって、大事にしてほしいと思います」
1970年代、小学生だった私はピンク・レディーの振り付けを覚え、友達と一緒に歌って踊るのが大好きでした。2000年のNHK紅白歌合戦を放送担当記者として取材した際は、二人を間近で見て「本物のピンク・レディーだ!」と感激したことをよく覚えています。インタビューでお会いした未唯mieさんは、一つひとつの質問をじっくりと考え、一言ずつかみしめるように語る姿が印象的でした。中でも、「音楽は私の生き様」と話したときの、まっすぐなまなざしに引き込まれました。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefullyプロジェクトリーダー 坂本真子
写真=伊ケ崎忍撮影
-
◆未唯mieの日「MIE to 未唯mie」リリースLIVE
◇4月30日(日)
第1部14:00開場、15:00開演/第2部17:00開場、18:00開演
ビルボードライブ大阪
問い合わせ:06-6342-7722(会場)http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13943&shop=2
◆オールタイム・ベスト「MIE to 未唯mie 1981-2023 ALL TIME BEST」
2023年3月1日発売、CD2枚組、4400円(税込み)。
https://www.jvcmusic.co.jp/PinkLady_MIE/
◆新曲「Hallelujah《ハレルヤ》」
各音楽サービスで配信中。
https://jvcmusic.lnk.to/mie_Hallelujah
◆DVD6枚組BOX「Pink Lady Chronicle TBS Special Edition」
2023年4月19日発売、2万9480円(税込み)。
https://www.jvcmusic.co.jp/pinklady
◆未唯mieオフィシャルサイト http://web-mie.com/
◆未唯mieオフィシャルInstagram https://www.instagram.com/mie_doux/
◆未唯mieオフィシャルブログ https://ameblo.jp/mie-doux
- 記事のご感想や、Aging Gracefully プロジェクトへのお問い合わせなどは、下記アドレス宛てにメールでお寄せください。
Aging Gracefullyプロジェクト事務局:agproject@asahi.com