AGフレンズ 高尾美穂先生〈2〉
更年期を乗り切るために周りができるサポートは
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[ 23.09.20 ]
Aging Gracefullyプロジェクトが今年度新たにお迎えした「AGフレンズ」。産婦人科専門医・高尾美穂先生のコラム2回めは、更年期を乗り切るために本人や周りの人ができることについて、AG世代に向けたメッセージをお届けします。
――更年期と思われる症状で苦しんでいる家族や友人、会社の同僚が身近にいるとき、周りの人はどのようにサポートすれば良いのでしょうか?
更年期の不調は、自分で気づいても我慢している女性の方が多いと思います。なぜかというと、女性がしっかりしすぎているからです。自己管理ができているという意味ではなく、社会的に見て問題ない人である、ということをしっかりできている状態です。ただし、それは決して、健康面でも全く問題ない、というものではありません。
「自分は大丈夫」と思っていても、周りから見たら「全然大丈夫じゃない」ということに気がつける、そのきっかけになるのは一番近くにいる人です。パートナーや近くにいる友達ですね。たとえば10年前から自分のことを知っている友達、人間関係は大事にした方がいいです。特に40代、50代になったら、そういう友達とちょこちょこコミュニケーションをとることをおすすめします。お互いに「こういう時期だよね」と確認し合い、情報交換して、みんながどんなことを考えているのかを知る機会はとても大事です。
パートナーの話が出ましたが、この年代になると、パートナーシップがうまくいっていないカップルが多いという現実があります。なぜならば、役割が変わるから。最初は恋愛対象であった方が、生殖のためのパートナーに、そして妊娠、出産、子育てのパートナーの時期を経て、子どもたちが育った後にまた恋人に戻ることができたらいいわけですが、そんな簡単には戻れない。パートナーが「生活の面倒をみなきゃいけないだけの相手」になってしまっていることはまあまああって、それほど大事に思っていない人からのアドバイスは、なかなか素直に受け入れられない、というケースが少なからずあります。
男性も更年期障害に相当する、カリカリしたり、明らかに気力がなくなったり、といった変化が起こり得る年代です。お互いの体が変わっていくことを少しでも知っていれば、そういった変化もお互いに想像できますよね。一番近い人に心から声をかけられるような関係性のパートナーでいることが大事です。逆に、「もういいわ」と思っている関係性だとお互いがストレスになることが多くて、それは本当にもったいないこと。いい関係性をずっと続けていって、それぞれが動物的、生物学的な性差を持っていることをパートナー同士がある程度理解した上で、お互いにこんなことが起こる年代だよね、と知っていれば、心から心配して声をかけられると思います。
――今、管理職になっている女性の多くは更年期世代ですが、心身の不調が原因で離職したり、管理職を降りたりする方がいます。
更年期世代で管理職の女性が心身の調子を維持するためには、自分で何かしらの努力をすることが必要になります。ホルモン補充療法(HRT)や漢方薬による治療のほか、睡眠や運動で自律神経の働きを整えることも大切です。ただ、それでも困っているのであれば、「最近困っているのよね」と相談していいんです。周りにヘルプを求められるかどうかも、更年期を乗り切る一つのポイントです。
弱みを見せてヘルプを求める
――読者から「更年期の不調に悩む女性に対して、男性は気づかないふりをした方がいいですか」という質問が来ています。
日本の社会で、これから変わっていくことが望ましいと考えている点の一つに、ちょっと心を病んだり体の調子が悪かったりしたとき、それを自分の「弱み」だととらえてしまう文化が挙げられます。たとえば、うつと診断されたとき。これは病気で、その人自身のせいではないはずなのに、自分の弱点だと思ってしまう。病気になった自分が悪い、という考え方はしなくていいのにもかかわらず、そんな方は少なくありません。
一方で、周りが気づいていないふりをしてくれることで、立ち直りやすい人もいます。簡単に言うと、自分の弱みが知られていないと思うことで、自分の心を強く保てる女性もいるということです。そういう方であれば、周りからそっとしておいてもらえる方がありがたいでしょうね。ただ、そういう姿勢を貫く人は、自分の力だけでどうにかしないといけなくなります。それよりも、自分の弱みを知ってもらい、ヘルプを求めることができる方が絶対に楽だと私は思います。
仕事のスキルも、「ここについては強い」「でも、ここは苦手」「だからここはあなたにお願い」と、でこぼこが組み合わされてうまくいくと理想的ですよね。けれども今の日本では、「だいたいみんな何でもできる」というところをめざして、できないことをできるようにする一方で、伸びたものはおさえこむような育てられ方をしてきたので、出っぱりやくぼみを良しと思えないんですね。更年期の不調を自分の弱みだと考えて、「他人には見せられない」という感覚でいる人が少なくありません。これは本当にもったいないことです。
――女性の側に、発想の転換が必要ということでしょうか?
「自分は今、調子が良くない時期だけど、今まで20年間、頑張ってきたよね」と言えればいいんです。たとえば、結婚せず子育ての時期も特になく働き続けてきた女性は、本当に会社のために20年間頑張ってきているわけで、自分が間違いなく会社の役に立っていると思うのであれば、それはアピールポイントになりますよね。調子が悪くてもいつまでも続くわけではなさそうだし、対策方法もある、ということで、「休まず頑張ってきましたが、今は体調が悪いので、ちょっとゆっくりさせてください」と言えばいいのではないかと思います。
とはいえ、こういうことが許されない空気も世の中にはまだありますし、「言ってはいけない」もしくは「言うと自分の評価が下がる」という本人の固定観念もあるでしょう。それでも、「今までこれだけ頑張ってきたよね」と、自分自身を振り返ってみてほしいと思います。
――ここ数年、テレビや雑誌でも更年期が注目されるようになりました。高尾先生は、社会全般に変化を感じていますか?
女性活躍や男女共同参画という言葉は、日本語にしかないと言われています。欧米にはそういう感覚が必要ありませんでしたが、儒教的な考え方が強かった日本では、家の外で動いていたのが男性だけでした。でも今は子どもの数が減り、働く人の数が減り、男性だけでなく女性も働く、という状況になってきて、全てをひっくり返していく必要がある。社会が変化している過渡期に、いろいろなものが変わっていく様子を見られることは楽しいですし、あるべき姿に変わっていくことを信じて見守っています。
女性の生理にまつわる不調について、10年前はメディアでも全く取り上げられませんでしたが、今は女性向けの月刊誌のどこかに必ず体の話題が載っています。更年期という言葉も、10年前は間違いなくネガティブにとらえられていて口に出せないものでしたし、更年期は「イライラしているおばさんが特に理由もないのにうだうだと言っている」というイメージでとらえられていました。
でも今は、更年期は誰にでも訪れる時期だと知られてきて、大きな企業や自治体から徐々に対策は手厚くなっています。まだまだ取り組みを続けていくことが必要ですが、少なくとも10年前よりは変わってきていますよね。更年期の対策方法も確立され、安全性もより高まってきたわけです。
――ホルモン補充療法もアップデートされています。
ここ二十数年で副作用は減り、効果が高まったのは、ありがたい変化です。これを上手に活用することが賢い生き方だと私は思います。血栓症や乳がんのリスクには目を向ける必要がありますが、たとえば薬にリスクがあるときに、そのリスクを気にしながら過ごすことは、体全体の健康を気にしながら過ごすことにつながるといえるのではないでしょうか。もちろん、人間ドックや健康診断を毎年受けることにもつながります。
乳がんは今、女性の9人に1人が経験する病気で、ホルモン補充療法をしていなくても乳がんになる方は大勢います。それならば、「私はホルモン補充療法をしているから乳がんに気をつけた方がいいし、乳がんの検査をちゃんと受けよう」と考える。リスクをうまく裏返して、前向きにとらえる材料にしていただけたらと思います。
- 高尾 美穂(たかお みほ)さん
- 産婦人科専門医、医学博士、婦人科スポーツドクター、女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。
東京慈恵会医科大学大学院修了後、東京慈恵会医科大学病院産婦人科助教、東京労災病院女性総合外来などを経て現職。婦人科の診療を通して女性の健康を支え、女性のライフステージやライフスタイルに合った治療法を提示して、選択をサポートしている。NHK「あさイチ」などTV番組への出演や、WEB連載、SNS発信のほか、音声配信アプリstand.fmで毎日配信する番組「高尾美穂からのリアルボイス」は、総再生回数が1千万回を超える。近著に『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(朝日新聞出版)、『人生たいていのことはどうにかなる あなたをご機嫌にする78の言葉』(扶桑社)、『更年期に効く 美女ヂカラ』(リベラル社)、『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)、『更年期前後がラクになる! おうちヨガ入門』(宝島社)、『心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには』(日経BP)、『いちばん親切な更年期の教科書【閉経完全マニュアル】』(世界文化社)など。
次回は12月に公開予定です。
取材&文=朝日新聞社 Aging Gracefully プロジェクトリーダー/編集長 坂本真子
写真=品田裕美撮影
AGフレンズの記事バックナンバーです。
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