AGフレンズ 高尾美穂先生〈3〉
自分なりに準備して更年期を心地よく
Special ライフスタイル ヘルスケア 更年期 学び ハウツー
[ 23.12.20 ]
Aging Gracefullyプロジェクトが今年度新たにお迎えした「AGフレンズ」。産婦人科専門医・高尾美穂先生のコラム第3回は、閉経前後に起きる体の変化について、AG世代に向けたアドバイスです。
――閉経前は生理の周期が不安定になりがちですが、急な出血は、何か対処をした方がいいのでしょうか?
そもそも急な出血は、社会人としてとても困りますよね。次の出血の時期が読めない、というお悩みは少なくありません。一方で、出血を心配したほうがいいのか、そこまで心配しなくていいのか、この点は、どのぐらい前に婦人科で診察を受けたかによりますね。半年以内に婦人科で「問題ない」と言われたのであれば、「一時的なものかな」と思っていいでしょう。でも、1年以上婦人科にかかっていないなら、すぐ病院に行きましょう。閉経前は体が変わる時期で、生理の状態も変わるので、1年に一回は婦人科的なチェックを受けることをおすすめします。
ただ、健康診断では基本的に、特に困っていないことを前提で診ることが多いので、健康診断から半年ぐらい経っていて何か心配なことがあれば、婦人科を受診してください。健康診断で指摘されなかった異常を指摘されることがあります。
――40代、50代は、がん検診も受けた方がいいですよね。
たとえば、半年前に子宮頸(けい)がん検査の結果が陰性だったとして、いきなりがんと診断されることはほとんどありません。でも、1年前の検査結果が偽陽性だと、可能性はゼロではありません。年一回の健康診断や婦人科健診を受けた上で、気になることがあれば婦人科を受診してください。
私は婦人科のかかりつけ医を持つことをおすすめしています。かかりつけ医とは患者と医師との間でお互いに信頼関係がある状態を指すと考えていますが、かかりつけ医を持つことのメリットのひとつは、前の状態と比べられることです。以前の検査結果はこうで、今回がこうだった、という比較ができる病院が、婦人科にもあるといいですね。
――子宮筋腫や子宮内膜症といった婦人科系疾患は、閉経でどう変わりますか?
子宮筋腫は女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)に依存性の腫瘍(しゅよう)なので、閉経を迎えると、3センチぐらいの筋腫は2センチぐらいに、7センチぐらいのものは5センチぐらいに小さくなります。子宮全体も小さくなっていきます。閉経から10年、15年経つと、だんだん目立たなくなっていきます。
子宮内膜症(※)のうち、卵巣の腫れであるチョコレートのう胞は、閉経後に見えなくなることが結構あります。でも、もともと4、5センチ以上あったものが消えることはほとんどありません。むしろ、がん化することがあるので、サイズが大きめのチョコレートのう胞は、腹腔(ふくくう)鏡手術などで切除することを私はおすすめしています。卵巣全体を切除すれば、がん化のリスクもなくなります。
性交痛がつらいときは
――閉経後の性交痛について、どのように対処すればいいのかと、読者から質問がありました。
週1~2回など、まあまあの頻度で性交渉がある人は、40代の頃から腟(ちつ)の状態を維持しようと努力されている印象が強いです。腟自体は筋肉ではないので、一回細くなってしまったものを伸ばすことは難しいですが、まあまあの頻度で性交渉があれば、そのたびに広がるので極端に細くなってしまうことはありません。その状態を維持して、閉経前後の時期を過ごすことが大事です。
一方、「ごくたまに性交渉があります」という頻度で、特にケアをしていないと、気づかないうちに腟が細くなり、分泌物が減って弾力性も失われ、滑りも悪くなっていることに気づきます。そのために性交痛がトラウマティックな経験になってしまって、本当にたまにある性交渉が「苦痛で仕方がない」というケースや、「入りにくくて、もう諦めた方がいいですか」という相談もあります。元に戻すのは難しいですが、ホルモン補充療法も期待できますし、たとえば女性用の大人のおもちゃ的なものを使って状態を維持してみるとか、性交渉の際に潤滑ジェルを使ってみるとか、腟が細くなることを妨げるための選択肢はいくつかあると思います。
性交渉があるなら、閉経の前後ぐらいからずっと、ちょこちょこと伸ばしておくのは、できることのひとつです。そうすれば、一気に細くなってしまうことはありません。柔軟性が確実に残るわけではありませんが、一度ギュッと固くなったものを伸ばすよりはましなので、伸びる状態をときどき経験させておくことをおすすめします。
なお、経腟分娩(けいちつぶんべん)で出産していて、ときどき性交渉があるような人でしたら、すれて痛かったり出血したりといった状態はあっても、挿入は可能なことが多いです。帝王切開での分娩経験者だときついかもしれません。出産経験がないと、これはもうだいぶ大変だよね、というのが正直なところです。腟を赤ちゃんが通ったことがあるかどうか。そこには大きな違いがあります。
性交痛については、婦人科で相談されることもありますが、悩んでいても言い出しにくいのでは、と感じています。全く違う話題から聞いていって、流れで「性交渉はどう?」と聞くと、「痛くて全然無理です」という答えが返ってくることはよくありますね。それは40代、50代に限ったことではなく、20代でも、苦痛だった性交渉がトラウマになっているケースがあります。
――パートナーとの関係について、アドバイスはありますか?
今、30代半ばや40歳ぐらいから「全く性交渉がない」というカップルは少なくありません。子育てや仕事に一生懸命で、「性交渉どころじゃない」「体力がない」「二人目はいらない」といった事情です。中には、「この先も性交渉は必要ない」という生き方もあります。パートナーがそれで良いのであれば、他のコミュニケーションを持つことで一緒に過ごしていけるでしょう。
「痛いから無理、と相手に伝えるのは申し訳ない」という人もいますが、一緒にお風呂に入るとかスキンシップをするとかでカバーしていけばいいのでは。男性器を腟に挿入するだけが性交渉ではないので、何かを楽しみながらのコミュニケーションの延長、という考え方ができるかどうか。パートナーとの関係も改めて作っていけばいいと思います。
パートナーに「拒絶されている」と感じさせてしまうのは、本当にそう思っていないのであれば、もったいないですよね。「あなたのことが嫌いなわけじゃないけれど、ちょっと痛すぎて入らないんだよね」など、普通に伝えればいいと思います。「多分サイズが合わなくなっているんだと思う」というような説明が一番素直かもしれません。
――閉経前後を心地よく過ごすために、日々できることがありそうです。
40代、50代は、若い頃のように何でも自然にできるわけではないので、いろいろ準備をしておくと、ある程度快適に過ごせる可能性が高くなります。性交渉がありそうなら、自分なりの準備をしておくことをおすすめしますし、生理がばらついてきた頃からホルモン補充療法を始めれば、さまざまな更年期の不調への対策にもなります。
体の快適さと環境の快適さのうち、環境の快適さはすぐには変えられませんが、体の快適さは自分でほどほどに決められるもの。ただ、そのわりにみんな、アクションをあまり起こさないですよね。体については特に、自分で選ぶことで状況が良くなる方法が増えているので、まずは正しい知識を得て、心地よく生きるために、自分なりに何か行動してみていただけたら、と思います。
- 高尾 美穂(たかお みほ)さん
- 産婦人科専門医、医学博士、婦人科スポーツドクター、女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。
東京慈恵会医科大学大学院修了後、東京慈恵会医科大学病院産婦人科助教、東京労災病院女性総合外来などを経て現職。婦人科の診療を通して女性の健康を支え、女性のライフステージやライフスタイルに合った治療法を提示して、選択をサポートしている。NHK「あさイチ」などTV番組への出演や、WEB連載、SNS発信のほか、音声配信アプリstand.fmで毎日配信する番組「高尾美穂からのリアルボイス」は、総再生回数が1千200万回を超える。近著に『わたしの人生の悩みは女性ホルモンを味方にすれば解決する』 (晋遊舎ムック) 、『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(朝日新聞出版)、『人生たいていのことはどうにかなる あなたをご機嫌にする78の言葉』(扶桑社)、『更年期に効く 美女ヂカラ』(リベラル社)、『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)、『更年期前後がラクになる! おうちヨガ入門』(宝島社)、『心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには』(日経BP)、『いちばん親切な更年期の教科書【閉経完全マニュアル】』(世界文化社)など。
次回は2024年3月に公開予定です。
AGフレンズの記事バックナンバーです。
>>AGフレンズ 高尾美穂先生〈1〉 更年期を自分らしく楽しむためにできること
>>AGフレンズ 松本千登世さん 大人美容を、楽しく〈1〉 「きれいになりたい」は何のため?
>>AGフレンズ 村田貴子さん 『ワクワク人生を楽しむ』お金のはなし〈1〉 老後の不安を「見える化」、資産寿命を伸ばそう
>>AGフレンズ 高尾美穂先生〈2〉 更年期を乗り切るために周りができるサポートは
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