AGフレンズ 高尾美穂先生〈4〉
自分の人生は自分で変える まず行動を
Special ライフスタイル ヘルスケア 更年期 学び ハウツー
[ 24.03.27 ]
Aging Gracefullyプロジェクトが今年度新たにお迎えした「AGフレンズ」。産婦人科専門医・高尾美穂先生のコラム4回目は、人生の後半の生き方について、AG世代に向けたメッセージをお届けします。
――2023年9月出版の著書「娘と話す、からだ・こころ・性のこと」(朝日新聞出版)で、「『40代からできることは?』の真の答えは、『自分のために時間を使うこと』なのかもしれません」と書いていらっしゃいました。Aging Gracefullyプロジェクトが呼びかけているメッセージと同じです。
時間は本来みんなに平等なもので、お金で買えないし、ためておけない。そんな24時間をほかの誰かのために使ってしまっているのが、特に40代、50代の女性だと思うんですね。子どもに何かあったとき、最初に連絡が行くのはお母さん。子育てをしながら働いている女性は本当に頑張っていると思います。そして、夏休みなどは(輪をかけて)みんな大変そうで、何かがおかしいと思いながら、必死でどうにかやりくりしようとする。そういう器用さを持っているのがこの世代だと思います。
でも、器用にやりくりする中で自分の時間がなくなっていくのは、もったいないと思いますね。子どものことは確かに守らないといけませんが、ほかの誰かができることを探してみたり、本当の意味で自分にしかできないことをもう少し大事にしたり。自分を大事にすることは自分にしかできないわけで、そこを忘れないでほしいと思います。
私は婦人科の医師で、人口の半分だけを診て20年以上過ごしてきました。その中で、女性たちが良い状態でいれば、周りにいる人たちも幸せにできる、という考え方に変わってきました。カツカツで余裕のない状態では、良いものは生まれません。今の日本の社会において、女性の調子が良いことはとても大きな価値になると思います。家庭においても職場においても、まず当事者がそういう考え方を持った方がいいですね。
――著書で「自分の人生は自分で決められるはず」と書いていらっしゃいますが、40代50代は、その点についても中途半端な年代のように思います。
それはたぶん子どもがいるからですよ。子どもがいなければ、自分で自分のことを決められますよね。でも、子どもが大学を卒業するまでは、結婚するまでは、実家を出るまでは……と、いろいろな区切りで自分の役割が終わったと思うまでは子どものことを心配し続けます。良い人生を過ごしてほしいと願うのは、親の気持ちとしては自然だと思いますが、心配しすぎたり、それで忙しくなったりして本人の調子が悪くなるのは本末転倒。子どもにもいい影響はないわけで、その点は考えた方がいいのでは、と思います。
――「お母さんお父さんが『自分の人生』を楽しく過ごしている姿を娘さん息子さんに見せることのほうが、親としてよっぽど大事なこと」とも書かれていました。
子どもが小学5年、6年ぐらいになったら、親は好きにしたらいいと思うんです。女性が元気に働けて、ちゃんと稼いで、もっと自分でお金を持つようになれば、困ったときも経済的な自立という選択肢がある。可能性が広がるし、自分が生きたい人生を生きられると思っています。そのためにも、同一労働同一賃金はとても大切なことだと考えています。
でも、(インターネットラジオの)「高尾美穂からのリアルボイス」でそういう話をすると、反対意見が来ることもあります。「子どもはお母さんに育ててほしいと思っているんです。お母さんが働かなくていいように、お父さんの給料を増やしてください」というものもあって、本当にいろいろな考え方があるんだな、と改めて思いました。同時に、みんながみんな、女性が自立できてもっと強くなればいいとは思っていないことにも気づきました。いろいろな生き方があっていいと思いますが、パートナーが早くに亡くなって困ることもあるわけで、そういうことが起きる可能性がゼロではないことを誰もが知っておく方がいいと思います。
今の日本で、会社で多くの役割を担う立場の男性が仕事を全うするには、家庭での役割を果たす余裕はないし、そういう状況が許されていないと無理なんですよ。子どもの運動会がいつあるかも知らず、家族には家にほとんどいないと思われている。そういう状況で生活している議員の人たちが、埼玉県虐待禁止条例の一部改正案(※)みたいなものを出してくるわけです。時代は変わってきたと思っていたにもかかわらず、東京の隣の埼玉県で、家では妻が子どもをみればいいだろうと考えている人たちがまだ一定数いるということ。現状とずれてしまっているし、もっとほかの人のことも許容して考えてほしいですね。そして、妻が全く働かずに家を守れる割合は少なくなっていることにも気づいてほしいと思います。
女性が働くという変化に社会がまだ追いついていないんです。受け入れる側も、女性自身も、一緒に働く男性の感覚も、一緒に暮らしている男性の感覚も。コロナ禍で特に目立ったのが、テレワークで夫婦が2人とも家にいて、妻が夫の昼食も準備しないといけない家が多かったという話です。そこには、女性が家事をやって当たり前、という無言の感覚があります。そういうお母さんを見たら、娘は希望を失うでしょうし、結婚してもいいことはない、と思うかもしれません。
家庭でも職場でも交渉が大事
――今、20代から30代半ばぐらいの世代では、妻が出産したら育児休業をとるという夫が増えています。
これからの10年ですごく変わるでしょうし、そういう人たちが社会の一員だということを、昭和の感覚を持つ男性のみなさんは知っておく必要がありますね。無意識のうちにジェンダーの課題があることを発言してしまうような男性たちを、若者たちはすごくクールに「あの人、仕事はできるけど、こういうところはいまいちだね」と見ています。そういう時代だと知っておいた方がいいかもしれません。
でも、女性も自分の置かれている環境に文句を言いながら、諦めてしまっていることが多いのではないでしょうか。愚痴を言わずに粛々と仕事を終わらせていく人はかっこよく見えますが、愚痴を言いながら何も変えようとしない人は、若者からは一番かっこ悪く見えるのでは、と思います。
今が「すごく大変」という時期であれば、いかに分散させるかを考えてみましょう。愚痴を言うぐらいなら、自分の意思でいろいろ動いて変えていくことが大事ですし、下の世代から見ても参考になります。困っていることは困っていると言えばいいんです。周りは全く気にしていなかったり、悪気なく気にかけていなかったりすることがあるから、まずは困っていることを知ってもらうだけでも、かなり違うと思います。
そして、誰かに話を聞いてもらうだけでなく、行動が伴っているかどうか。「嫌だ」という状況に対してアクションを起こせているかどうか。交渉やネゴシエーションは、家庭でも職場でも大切です。何事もアクションありきで、行動を起こしてみないとわかりません。
前向きに諦めることはいいですが、取り組みもせずに諦めたり、他の方法があったかもしれないことを諦めたりするのはもったいないと思います。体調を改善することもそうですし、家族の中で役割分担を変えることもそうです。まずは、何かやってみたら変わるかも、という可能性を捨てないこと。自分で変えていかないと、という危機感を持ってください。だって、誰かが変えてくれると思っていたら、人生はあっという間に終わってしまいますから。
- 高尾 美穂(たかお みほ)さん
- 産婦人科専門医、医学博士、婦人科スポーツドクター、女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。
東京慈恵会医科大学大学院修了後、東京慈恵会医科大学病院産婦人科助教、東京労災病院女性総合外来などを経て現職。婦人科の診療を通して女性の健康を支え、女性のライフステージやライフスタイルに合った治療法を提示して、選択をサポートしている。NHK「あさイチ」などTV番組への出演や、WEB連載、SNS発信のほか、音声配信アプリstand.fmで毎日配信する番組「高尾美穂からのリアルボイス」は、総再生回数が1千200万回を超える。近著に『わたしの人生の悩みは女性ホルモンを味方にすれば解決する』 (晋遊舎ムック) 、『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(朝日新聞出版)、『人生たいていのことはどうにかなる あなたをご機嫌にする78の言葉』(扶桑社)、『更年期に効く 美女ヂカラ』(リベラル社)、『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)、『更年期前後がラクになる! おうちヨガ入門』(宝島社)、『心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには』(日経BP)、『いちばん親切な更年期の教科書【閉経完全マニュアル】』(世界文化社)など。
AGフレンズの記事バックナンバーです。
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