子どものような好奇心を持って
自由に生きていくことが
日々を輝かせる
[ 23.12.11 ]
2018年にドイツ人男性と結婚し、東京とオーストリアの二拠点生活を送る中谷美紀さん。東京では精力的に仕事をこなし、オーストリアではザルツブルク郊外の自宅で田舎暮らしを満喫というライフスタイル。長距離の移動や異文化のなかでの生活、言葉の壁など、はたから見れば苦労に思えることでさえ、軽々と飛び越えて楽しみに変えてしまう彼女。その秘密は、「自由を愛する心」にあるようです。
いただいた役と向き合いながら
今の自分を楽しんでいく
今年の年末にかけては東京で仕事ざんまいの中谷美紀さん。主演ドラマ「ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~」(フジテレビ系)が放送中で、物語がどう決着するのか目が離せないところ。彼女が演じる報道キャスター・倉内桔梗は、突如番組の打ち切りを告げられ、料理番組へ異動することに。キャリアを絶たれてもなお、上層部からの圧力に屈せず、黙々と事件の真相を追う姿が心に残ります。
「番組のMCは若い女性に引き継がれるわけですが、世代交代は男女問わず、組織に属していれば起こりうること。40代、50代はそうした変化に直面しやすい年代だとも思いますので、自分の力ではなんともしがたい無力感に共感してくださる方もいらっしゃるのではないかと。俳優も同じように年齢によっていただく役が変わっていきますが、もはや年齢や性別によってポジションが奪われることを心配するような悠長な時代ではなく、生成AIの登場により、いとも簡単にお役ご免になることを覚悟しなければなりませんね」
年齢を重ねるほどに演技の幅を広げ、出演作が切れない中谷さん。舞台「猟銃」でニューヨーク公演を行うなど俳優として円熟味を増していますが、意外にも「俳優業にはあまりこだわりがない」と話します。
「ありがたいことにお仕事をいただけて、目の前にあるものに必死に取り組んでいるうちに、いつの間にか次のお仕事が舞い込むということの繰り返しでここまでたどり着きました。自分で道を切り開いてきたというよりも、さまざまなご縁のおかげで今の自分があります。そのせいか、たとえ俳優の仕事がなくなってもそれはそれでいいかなという思いがあります。オーストリアの大学は授業料が無料なので、もし暇になったらどこかの大学で学ぶなど、全く違う楽しみを見つけるのもいいなと感じています」
著書「文はやりたし」で明かす
オーストリアでの心豊かな暮らし
もう一つの拠点であるオーストリアではザルツブルク郊外とウィーンに自宅があり、自然や音楽と触れ合いながら心豊かな日々を送っています。10月に刊行した著書「文はやりたし」は2016年から約6年間にわたるエッセーの連載をまとめたもので、仕事への思いや結婚による変化、コロナ禍の隔離生活、田舎暮らしの楽しみなど、折々の暮らしぶりと心の内を垣間見ることができます。そしてなにより、知的好奇心と教養に裏打ちされた多彩なテーマと文章の美しさに心が動かされますが、ご本人はいたって謙虚。
「本当にお恥ずかしい限りでして(笑)。タイトルは『文はやりたし書く手は持たぬ』という言葉から拝借したのですが、まさにその気持ちで書いてきました。文字数もテーマも自由なのですが、書きたいことがおりてくるまでちょっと待つこともあって、なかなか締め切りが守れない落ちこぼれなんです。薬にも毒にもならないですが、暇つぶしにでも軽くページをめくっていただいて異国情緒を感じていただけたらうれしいです」
著書のなかで特に参考にしたいのが、徹底した体のケア。栄養学や医学、漢方、トレーニングなど、専門的な情報に基づいたさまざまなアプローチで体調を整えています。なかでも、役に立ってるのが分子整合栄養医学。血液検査で栄養状態をチェックして食事やサプリメントで改善していく方法です。
「出合ったのは10年以上前のことです。魚介や卵を時折口にするペスコ・オボベジタリアンを6年ほど続けていたところ、体力の低下と大人のニキビに悩まされるようになったんです。その時に、分子整合栄養医学の検査を受けて、いかに栄養状態が悪いかを目の当たりにしました。専門医の指導のもと、炭水化物や糖質を制限して、動物性たんぱく質をしっかり取るように食生活を根本から見直しました。サプリメントのなかでは、ナイアシンがとても効果がありますね。若い頃は冬にしもやけができるほどの冷え性でしたが、冷えを感じなくなりましたし、肌も乾燥しにくくなりました」
人生はばくちみたいなものだから
喜びも理不尽も甘受していく
さらに驚かされるのが、彼女のチャレンジ精神。たおやかで美しいたたずまいのどこにそんなパワーが宿っているのかと思うほど。結婚を機に始まった様々な挑戦――。ドイツ語の習得や自宅の庭造り、ご近所付き合い、運転免許の取得やおいしい食べ物、音楽や芸術に至るまで、あくなき探求心で彩られています。
「不慣れなことに挑戦したり、未知の世界の扉を開いたりするのは好きなほうです。きっと子どもと変わらない好奇心があるのだと思います。元来の性格が飽きっぽくて移り気であるがゆえに、同じ場所にいるだけでも飽きてしまうんです。なので、意識して冒険しているというよりも、風の吹くまま、興味の引かれるまま動いているというところでしょうか(笑)。二拠点生活は理想的なライフスタイルなのかもしれませんね」
自由を心から愛し、自身を「風来坊」とも称します。日常のなかでは失敗や理不尽なこともあるけれど、それさえも楽しんでしまう器の大きさが、中谷さんを輝かせる力になっているに違いありません。
「ギャンブルはしませんが、人生そのものがばくちだと思っているんです。結婚も全くの想定外でしたし、流れに身を任せているうちに、いろいろなご縁に導かれていくのが面白いですね。何年も手をつけられずにいたことを、ある出会いをきっかけに急に始めたりすることもありますし。喜びも理不尽も日々起こることを甘受しながら、心のままに過ごせることが幸せです。その自由を味わうためには、自分で環境を整えていくことも大切だと思っています」
- 中谷 美紀 Miki Nakatani
- 1976年1月12日生まれ、東京都出身。現在、主演ドラマ「ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~」(フジテレビ系)が毎週月曜21時から放送中。著書に「インド旅行記1~4」「オーストリア滞在記」(いずれも幻冬舎文庫)など。2023年3月に舞台「猟銃」でニューヨーク公演を果たす。同年10月、著書「文はやりたし」(同)を出版。12月には、ビオラ奏者の夫、ティロ・フェヒナー氏が所属する「フィルハーモニクス ウィーン=ベルリン」のコンサートに朗読で出演。13日の東京オペラシティコンサートホール公演のほか、12日に鹿児島、15日に大阪で開催(詳細は https://www.japanarts.co.jp/concert/p2047/ )。
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