AGサポーターコラム
ゆるやかな加齢の坂、壁、そして「崖」
更年期の旅を歩んで〈 1 〉
Special ライフスタイル ジェンダー 更年期
[ 22.10.26 ]
40代と50代、Aging Gracefully(=AG)世代の女性に、コラムを書いたり、プロジェクトの活動を手伝ったりしてもらう「AGサポーター」。朝日新聞社員のAGサポーターたちからは、日々感じていることや取材を通して思うこと、AG世代にオススメしたい話題などをお届けします。
女性の更年期を経験してわかったこと。更年期の旅は、「不確か」の連続だということです。いつから旅が始まり、いつまで続くのか、途中どんな道のりになるのか、その時にならないとわかりません。確かなのは、「誰ひとりとして、全く同じ旅にはならないこと」、そして「旅には、いつか必ず終わりがくる」ということです。
現在の私は50代半ば。更年期の旅の真っ最中か、または終わりかけにいます。でも、「始まったのはいつ?」「どんなだった?」と聞かれたら、さっと答えられません。日本人女性の更年期の平均が、「閉経年齢を境に前後5年の計10年間、45~55歳ぐらいまで」ということは知っています。けれど、自分自身の更年期について、すぽっと切り出してはっきり語るのは、どうにも難しいのです。
そこで、40代前半から現在までの、地続きの道のりをつらつらと振り返りながら、思いついたことを書いてみようと思います。他の人には当てはまらない個人的な体験、更年期以外の話題もあれこれ出てきてしまいますが、その辺は、どうかお許しください。
現実逃避のつもりが
10年ほど前、40代半ばの頃の私は、まだ凪(なぎ)でした。毎日仕事で疲れ果ててはいましたが、更年期の自覚症状はほとんどありませんでした。日頃の疲れを取るため、気が向くとスーパー銭湯やらマッサージやらに通っていました。ある日は奮発して、海の見えるエステサロンで現実逃避することに。といっても、それほど高級ではなく、ショッピングセンター内にあるサロンです。個室からは海が見え、ちょっとしたリゾート気分に浸れます。丁寧にトリートメントを施してもらった後、別室のバスタブに案内されました。
「お入れするバスソルトは、ハーブと海藻、どちらになさいますか?」
「海藻でお願いします。これ、汗がじわじわ出て結構好きなんですよ」
セラピストがバスタブに海藻ソルトを投入し、ジャグジーのスイッチを入れると、お湯がたちまち灰色がかった緑色に濁り、独特の昆布のような香りがたちこめました。フランスのブルターニュ地方でタラソセラピー(海洋療法)に使われる、本格的なもののようでした。
バスタブにつかっていると、じわじわ汗がにじんできます。窓のブラインド越しに見えるのはブルターニュの海ではなく、よどんだ灰色の東京湾……。でも、そんなことはどうでもよくて、ゆったりくつろぐ至福のひととき。目の前には、「ご自由にどうぞ」といわんばかりに、ラックに美容系の女性誌が数冊。そのうちの一冊の表紙に釘付けになりました。
「40歳の坂、45歳の壁、49歳の崖になんか負けない!」
「大人の女の試練――坂は全力で駆け上がり、壁はぶち壊し、崖はパラシュートで着陸せよ」
なんと秀逸な、そして残酷なコピーでしょうか。その時ふと頭をよぎりました。
「そうか、今の私は40歳の坂をゆるやかに下っている。一時的に疲れてへたっているわけではなく、これから先、さらなる女の試練がやってくる。加齢の坂を転がり落ち、壁にぶつかり、あげくの果てに崖からすべり落ちる……。そして『更年期』という名の谷に落ちていくのだ……」
雑誌をめくってみると、特集のテーマは年齢別のスキンケア法でした。美魔女モデルたちの、類いまれなる肌の輝きと意識の高さに当てられ、お風呂でのぼせそうになり、雑誌をラックに戻しました。いずれにしても、せっかくの非日常的な空間で、加齢に向き合いたくはないもの。ちょっと複雑な気分でバスタブから出ました。
更年期への恐れを、はっきり自覚した瞬間でした。
- 山口 真矢子
- 朝日新聞社で雑誌編集、新聞編集、学校向け教育事業などを担当。現在は新聞の広告編成を担当。2児の母。
「更年期のストレス発散に、ラテン打楽器のコンガを始めました」
山口真矢子さんの「AGサポーターコラム」バックナンバーです。
>>ゆるやかな加齢の坂、壁、そして「崖」 更年期の旅を歩んで〈 1 〉
>>高齢妊婦の若作りとプレッシャー 更年期の旅を歩んで〈 3 〉
>>いまどきのママライフ満喫、からの絶不調 更年期の旅を歩んで〈 4 〉
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