AGサポーターコラム
高齢妊婦の若作りとプレッシャー
更年期の旅を歩んで〈 3 〉
Special ライフスタイル ジェンダー 更年期
[ 22.12.28 ]
40代と50代、Aging Gracefully(=AG)世代の女性に、コラムを書いたり、プロジェクトの活動を手伝ったりしてもらう「AGサポーター」。朝日新聞社員のAGサポーターたちからは、日々感じていることや取材を通して思うこと、AG世代にオススメしたい話題などをお届けします。
更年期について書くつもりが、気づいたら妊娠体験記になってしまいました。誠にすみません……。今回も引き続き、私が歩んできた女の“血の道”をあれこれ振り返る内容でお届けします。
40歳を過ぎていよいよ更年期の旅が始まったのかと思ったら、まさかの妊娠。戸惑いながらも、ハイリスクな高齢妊婦でも受け入れてくれる病院を予約しました。
幸い、妊娠の経過そのものは比較的順調でした。それまでずっとPMS(月経前症候群)があったので、妊娠中は生理がなくなって快適。以前なら毎月のように襲ってきた頭痛が、すっかり影をひそめたのには驚きました。その代わり、今度は猛烈なつわりに悩まされる日々……。毎日毎日、二日酔いのように気持ちが悪い。
当時、すでに夜勤職場からは離れ、日勤の新規事業の部署に移っていました。高齢妊婦の生活は一変。当然ですが、お酒は全て断ちました(というか、つわりで吐き気がして飲む気ゼロ)。倦怠感や眠気が襲ってきて夜遅くまで起きていられないので、おのずと超健全な昼型人間に変身しました。
妊娠後期になり、つわりが収まると、食欲が戻って体重増加がやまず、毎月の健診で母子手帳に「体重に注意」のスタンプが何度も押されるはめに。「さすがにこれ以上増えたら、産道に脂肪がついて難産になる……」と焦りだし、マタニティー専用のエクササイズやヨガ教室に通い始めました。
教室を見渡すと、周りの妊婦さんたちが自分より圧倒的に若い。当たり前です。初産の人だと、私より10歳、もしくはそれ以上お若い。みなさんお肌がつやつやで、おしゃれなウェアを着て、妊婦とは思えないほどスリムで、キラキラ輝いて見えました。一方、正面の鏡に映る私の姿は、太った体をデカTシャツで隠した疲れ顔のおばさん。妊婦だからおなかが出ているというレベルではなく、全身がぶよぶよ。エクササイズで動くたびに体中の肉が激しく揺れ、異様な量の汗をかきました。
妊婦向けの勉強会やイベントを見つけて顔を出すと、そこでも私は最高齢。何もしていなくても見た目や話し方に、“おばさんみ”が漂ってしまいます。みなさん、見た目も話し方も初々しく、私が集合写真に入ると、女子大の同窓会に紛れ込んだ恩師のような貫禄が……。
「少しでも若々しくしていないとかっこ悪い」という、謎のプレッシャーがのしかかってきました。
出産直後に大量出血
体重の問題以外は、臨月まで経過はおおむね順調でした。一方で、何か不調を感じるたびに「これって高齢出産のせいかも?」とビクビクすることが増えました。
出産直後、元気な赤ちゃんと喜びの対面。さまざまな処置を済ませ、病室に移り、ベッドで一休みしようとしたら、いきなり下から出血したような感覚が。吐き気もしたので、ナースコールを押しました。助産師や看護師に囲まれ、ガタガタ震えが止まらなくなり、医師も駆けつけドラマのような緊急態勢に。途中、「寒い……寒い……」とつぶやいているうちに、ふわ~っと意識が遠のきました。応急処置のおかげでしばらくすると出血は無事収まり、ことなきを得ました。もしナースコールを押しそびれていたら、どうなっていたのか。
処置が終わった後、主治医がベッドにやってきました。もうろうとしたまま、私が真っ先にたずねたことは……。
「あの~、大量出血したのは、高齢出産のせいでしょうか?」
「原因ははっきりしないですね。弛緩(しかん)出血といって、産後、自然に収縮するはずの子宮がうまく収縮しなくなると起きるんですよ。でも予測できないし、若い方でもなることがあります。今回は、輸血になる前のギリギリのところで出血が止まってよかった」と主治医。
「もし江戸時代だったら、私は死んでますか……?」と懲りずに聞くと、主治医はこの質問には直接答えず、「病院で産んでもらってよかったわ」と一言。つまり「助産院や自宅での出産だったら、救急搬送されていたかも」という意味だと私は理解しました。
ネットで検索すると、弛緩出血が起きるさまざまなリスク因子の中に「疲労」と「肥満」という文字が。やはり敵は、この全身の肉だったのでしょうか。
産後3カ月ぐらいになると、髪が一気に抜け、パッと見でもわかるほどの薄毛気味に。もう元に戻らないのではと不安になり、「レディース○○」など、女性用かつらの広告がやたらと気になりました。周りはみんな若いママばかりで誰にも相談できず、ネットで検索して「産後の薄毛はよくあること」と知り、気を落ち着けていました。
一人目の産後、孤独で悩んだ苦い経験があったため、二人目は、早めに地域デビューをすることに。まだ首もすわらない赤ん坊を抱っこひもに入れ、あちこちのママ向けイベントに出向きました。
しかし出会うママたちのボリュームゾーンは10歳年下。「私が中学生の時、この人たちは幼児?」と思うとクラクラ。自己紹介では、「私、この子の祖母ではなく母です~」などと自虐的な冗談を言っては周りを引かせていました。
年下のママ友が増えてくると、だんだん私にも若作り願望が生まれました。「ママ友には年齢を言いたくない」と、現実から目をそらし、無理やりマイナス10歳にチューニング。とはいえ美容やファッションの知識が恐ろしくないため、何か具体的な若作り対策をしたわけではないのですが、「同年代に見られたい!」という願望だけは強かった……。
そんな無駄な“若作り願望”をこじらせたせいで、私は更年期を受け入れる準備が、大幅に遅れたのです。
文=朝日新聞社 山口真矢子
(写真はイメージです)
- 山口 真矢子
- 朝日新聞社で雑誌編集、新聞編集、学校向け教育事業などを担当。現在は新聞の広告編成を担当。2児の母。
「更年期のストレス発散に、ラテン打楽器のコンガを始めました」
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