AGサポーターコラム
コロナ禍で家庭に変化、症状も悪化
更年期の旅を歩んで〈 5 〉
Special ライフスタイル ジェンダー 更年期
[ 23.02.22 ]
40代と50代、Aging Gracefully(=AG)世代の女性に、コラムを書いたり、プロジェクトの活動を手伝ったりしてもらう「AGサポーター」。朝日新聞社員のAGサポーターたちからは、日々感じていることや取材を通して思うこと、AG世代にオススメしたい話題などをお届けします。
日本でコロナ禍が始まったばかりの頃、みなさんはどうしていましたか?――この質問、将来もいろいろな人に投げかける気がします。2020年3月、私は51歳でした。次女の小学校がいきなり長期休校。中旬には私の職場も出社自粛になり、全面リモートワークに突入。ちょうど「マスクがどこも売り切れだ~」と、連日騒いでいたあの頃……。
仕事は、新規事業でサイトの企画を担当していました。社内で正式なゴーサインが出て、いよいよ本格始動というタイミングに、運悪くコロナで出社自粛に突入し、チームのメンバーが散り散りに。全ての作業をオンラインで進めることになりました。会議はもちろん、ちょっとしたアイデア出しやデザイン決めなどもすべてオンラインでやります、と言われて、最初はめんくらいました。
「大丈夫、全部オンラインでできます。慣れれば楽ですよ」と若いスタッフに言われ、「そうか、まぁ、1、2カ月ぐらいなら何とかなるか」と、たかをくくっていました。
密かに憧れていたリモートワーク。カフェでパソコンを広げるノマドワーカーが、かっこよく見えました。でも、見るのとやるのでは大違い。リモートワークは、職場と家庭の境目がなくなります。子持ち女にとって、それがこんなにしんどいとは……。
まず、ちょっとした雑談がしづらくなりました。チャットで頻繁にやりとりしているのに、次第に孤独を感じるように。仕事の合間に「ちょっと今話していい?」「お茶かランチ行かない?」、帰りがけに「ちょいと一杯」ができなくなったのが、昭和世代には痛い。コロナ患者さんたち、医療従事者やエッセンシャルワーカーたちの過酷さを思えば、自分の悩みなんて単なるわがまま。でも、この何ともいいようのない不安と孤独感がおりのようにつのり、じわじわと精神をむしばみはじめました。
新規サイトの公開日が近づくにつれ、やるべき業務が滝のように押し寄せます。新規事業なので、当然ながら前例のない業務ばかり。自分でゼロからやり方を決めて動かないと、何一つ進みません。私の力不足のせいもあり、「山口さん、例の件はまだですか? タスク管理をしっかりやってください」とチーム内で何度となく指摘されました。「IT環境で仕事ができない人間と思われたくない」と、しばらくは必死で食らいついていました。
在宅ワークに向いてない?
仕事だけでなく、家庭環境も大きく変わりました。わが家は、夫と私、年が10歳以上離れた娘2人の4人家族。夫はフリーランスで元から在宅ワーク。大学生の長女はリモート授業と就活デビュー。小学生の次女は長期休校で暇をもてあまし、YouTubeで延々とスライム動画を見まくり。私はダイニングテーブルの端っこでパソコンを広げて仕事。この4人が、連日同じ空間で過ごすようになりました。ダイニングテーブルは、家族の食事が並ぶ場所。時間に追われると、食べ残しのお皿やお菓子、仕事用の資料が同じテーブルで交ざり合いました。
少しでも時間が空くと、長女から「就活の自己PR文をチェックして」「面接練習につきあって」などと言われ、次女からは「今日はピアノのレッスンの日だから一緒に弾いて」「計算ドリルの宿題手伝って」と言われました。今までなら黙々と仕事だけをしていればよかった時間が、娘2人の世話で寸断されるようになり、イライラに拍車がかかりました。きっと、世界中の家庭で似たようなことが起きていたと思います。
オンライン会議や取材が続くと、やたら疲れるのも悩みの種でした。普段使わないどこかしらの神経を使うらしく、終了後は脳がどっと疲れました。頭痛と眼精疲労もひどい。オンライン会議中の自分の声を家族に聞かれることにも抵抗がありました。
疲れてソファで横になっていると、夫に言われました。「なんでそんなにいつも具合悪いの? 一度、頭痛外来とかに行ってちゃんと診てもらったら?」
子どもには、「あ~ママ、また仕事サボってる~。暇ならもっと遊んでよ」「何か食べ物ちょうだい」などと言われ、「ああ、もっと広い家に住みたい。自分だけの部屋がほしい」と心の中で何度絶叫したことか。家で働くと消耗が激しいため、日中はパソコンを持って、近場のネットカフェに逃避するようになりました。
ある日ふと、夫に弱音を吐きました。「私、在宅ワークに向いてないみたい。家と仕事の区別がない空間だと全然集中できない」
すると夫は、「会社でしか仕事ができないって、典型的な会社人間ってことだよね。僕は、今までずっと家とか外で仕事してきたから、どこでも集中して仕事をできるけどね」。
これには、カチンときました。いや、カチン、ではなく、ブチっと切れた。
「こっちの苦労も知らずに、よくそんなこと言えるよね。あなたには自分の仕事部屋があるけど、私にはないよ。見て、この狭苦しいダイニングテーブルを。誰ひとり、食べ終わったお皿を下げてくれないよね。慣れない新規事業でリモートワークして炊事と子どもの世話に追われて疲れきっている人間に、追い打ちをかけるようなことを言って楽しいの?」
こんな風に、ささいなことで感情が暴走してしまうのも、更年期の影響なのでしょう。そんなことはわかっていました、わかっていましたとも。でも、この時の私は、自分だけが悲劇のヒロインのように感じていました。
複数の症状が重なって
毎日やってくるお友だちは、頭痛と眼精疲労。更年期症状が一気に重くなりました。「なだらかな坂を下っていたら、いきなり壁にぶつかり、崖につき落とされた」。40代の頃の予感が、まさに的中したのです。
それまで断続的にあった頭痛、肩こり、眼精疲労、倦怠(けんたい)感、イライラに加え、花粉症による頭重が重なりました。花粉症の季節を過ぎると、今度はぐるぐる回るようなめまい、つわりのような吐き気、食道あたりの胸のつまり感、口やのどの渇き、声のかすれが出てきました。複数の症状が出たりひっこんだり、まるで不定愁訴のデパートのよう。コロナ禍のストレスか、更年期症状が悪化したのか、はたまた別の病気か? 症状が複数あって途方に暮れました。
次第に、仕事も家事も手につかなくなり、生活に支障が出はじめました。「あれをやらなきゃ、やらなきゃ……」と焦っているのに、体は鉛のように重く、頭もボーッとして霧がかかったような。
ホルモン剤を飲んでいるのに、以前よりも効果が薄くなったように感じました。あぁ、何だかもう何もやる気が起きない。毎日毎日時間に追われてつらすぎる。生活に疲れた。人生に疲れた……。
ここまで来て、ふと、「やばい、うつかもしれない」と思い、メンタルクリニックの扉をたたきました。
文=朝日新聞社 山口真矢子
(写真はイメージです)
- 山口 真矢子
- 朝日新聞社で雑誌編集、新聞編集、学校向け教育事業などを担当。現在は新聞の広告編成を担当。2児の母。
「更年期のストレス発散に、ラテン打楽器のコンガを始めました」
山口真矢子さんの「AGサポーターコラム」バックナンバーです。
>>いまどきのママライフ満喫、からの絶不調 更年期の旅を歩んで〈 4 〉
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