AGサポーターコラム
ふとした言葉に涙ぐんだ日
更年期の旅を歩んで〈 6 〉
Special ライフスタイル ジェンダー 更年期
[ 23.05.02 ]
40代と50代、Aging Gracefully(=AG)世代の女性に、コラムを書いたり、プロジェクトの活動を手伝ったりしてもらう「AGサポーター」。朝日新聞社員のAGサポーターたちからは、日々感じていることや取材を通して思うこと、AG世代にオススメしたい話題などをお届けします。
コロナ禍に更年期症状と抑うつ感がひどくなった私は、ついに地域のメンタルクリニックへ。初めて会った、私より年下に見える男性医師は、開口一番こう言いました。
「今の時期、体調を崩すのは当たり前ですよ。私たちは今まで誰も経験したことのない異常事態の中にいるんです。私も、クリニックを開業して以来のピンチを味わっていますよ。先が見えない不安でいっぱいです」
初対面の医師が自分のことを話すとは思わなかったので、ちょっと和みました。私の症状を説明すると、しばらくこれで様子を見ましょう、ということで、抗うつ剤を処方されました。
「飲み始めてしばらくは、吐き気が出ることがあります、でも、慣れますのでがまんしてください」と言われたので、「更年期でホルモン剤を飲んでいるのですが、同時に飲んでも大丈夫ですか?」と聞くと、「特に問題ないでしょう」。
処方された薬を飲み始めると、医師の予告通り、すぐに吐き気が出るようになりました。もとから更年期症状でうっすら胸のむかつきがあったので、それがさらに増幅した状態に。
抑うつ症状よりも、吐き気の方がつらい……。寝ても起きても気分が悪い。
待てよ。そもそも私は、この抗うつ剤を飲むほど状態が悪いのか? 更年期症状を軽減することの方が先なのでは? 漫然とホルモン剤を飲むだけではなく、他の方法も試してみた方がいいのでは……?
この判断は、医学的には大いに間違っているかもしれません。それでも私は、抗うつ剤を飲むのをすぐにやめました。
婦人科のクリニックを変えて
私はまず、かかりつけの婦人科クリニックを変えることにしました。今までのベテラン女性医師に大きな不満はありませんでしたが、説明がおおざっぱなのが少し気になっていました。
新たに出会った若い女性医師は、こちらの訴えをじっくりヒアリングし、数種類のホルモン療法について説明した上で、納得できるものを選ばせてくれました。
次に、漢方を積極的に取り入れました。新しい医師は漢方の知識も豊富で、相談すると積極的にさまざまな漢方を処方してくれました。
さらに、コロナ禍で自由がなく、職場でも家庭でも負荷がかかって苦労していることを誰かにわかってもらいたかったので、思い切って周りの人たちに相談しました。同僚の女性、男性の上司、会社の産業医、保健師、同年代のママ友、昔からの飲み仲間……。
その中で、私の事情を即座に理解し、寄り添ってくれたのは、初対面の女性保健師さんでした。
「相当苦しかったですよね、わかりますよ……。うまくいかないのは、あなたの能力の問題じゃないですよ。そもそも女性に負荷がかかりすぎなんです。個人の問題ではなく、構造の問題です。だからもう頑張りすぎないで、逃げられるものなら思い切って逃げちゃってください。よかったら、またいつでも相談しにいらしてくださいね」
この一言がどれだけ救いになったことでしょう。私はつい涙ぐんでしまい、保健師さんとハグしたい衝動にかられましたが、コロナ禍なので、ぐっとこらえました。
距離の近い人が悩みをわかってくれるとは限りません。私は、それまで一度も話したことがなかった人に救われたのです。
頼る手段や頼る人は、探せばまわりにいくつも存在するのだとわかっただけで、重苦しいよろいが軽くなったような気がしました。
あの頃の母の姿は
今でこそ、私はこうして更年期の経験を書いていますが、以前は医師以外の人に相談することはほとんどありませんでした。他人には言わない方がいいと思っていたからです。
なぜそう思っていたのか。その源流をたどると、私の母親が40~50代だった頃の姿にあると気づきました。
母は私を出産してから専業主婦をしていましたが、子育てが一段落した40代後半、パートで働きに出るようになりました。すると、毎晩のように職場の愚痴をこぼすように。あまりに描写が細かいので、会ったこともない同僚たちの人間模様について、私まで詳しくなってしまいました。
高校卒業後、私は進学のため実家を離れました。そして、私が社会人になった頃だったでしょうか。母が私に電話で話す愚痴の内容が、もっぱら「心身の不調」になったのです。
「眠れない」「急に心臓がドキドキする」「何を食べても砂のような味がする」「いろんな病院で診てもらったけど特に異常がない」「心療内科に行ってくださいと言われた」などなど。「私は悪い病気に違いない。この先長くないかもしれない」と、身の回りを整理し始めたこともありました。
当時の私は、そんな母の愚痴ばかりの生き方が嫌で、こういう大人にはなりたくない、と真剣に思っていました。今考えると、年齢的に母は更年期だったのでしょう。でも、その頃は知識も情報もなく、母も私も適切なケアができませんでした。
母がどんな更年期を過ごしたのか、私は結局まともに聞いたことがありません。母の体験談をきちんと受け継ぐことができないまま、私は大人になってしまいました。
世の中にはたくさんの女性がいるのに、今も私は一人で、本やネットでこそこそと更年期について調べて近所の病院に行くだけ。同世代のみんなはどうしているのだろう? みんなのリアルを知りたい……。
そこで、知り合いの女性たちに更年期の体験を聞くことにしました。
文=朝日新聞社 山口真矢子
(写真はイメージです)
- 山口 真矢子
- 朝日新聞社で雑誌編集、新聞編集、学校向け教育事業などを担当。現在は新聞の広告編成を担当。2児の母。
「更年期のストレス発散に、ラテン打楽器のコンガを始めました」
山口真矢子さんの「AGサポーターコラム」バックナンバーです。
>>コロナ禍で家庭に変化、症状も悪化 更年期の旅を歩んで〈 5 〉
>>いまどきのママライフ満喫、からの絶不調 更年期の旅を歩んで〈 4 〉
- 記事のご感想や、Aging Gracefully プロジェクトへのお問い合わせなどは、下記アドレス宛てにメールでお寄せください。
Aging Gracefullyプロジェクト事務局:agproject@asahi.com