AGサポーターコラム
ミニスカートで自分らしく 時代の先端へ
足跡たどる「マリー・クワント展」
Special ライフスタイル ファッション
[ 23.01.11 ]
マリー・クワントが手がけたミニスカートの丈の変遷が分かる展示。左端のワンピースはひざ上30センチ
40代と50代、Aging Gracefully(=AG)世代の女性に、コラムを書いたり、プロジェクトの活動を手伝ったりしてもらう「AGサポーター」。朝日新聞社員のAGサポーターたちからは、日々感じていることや取材を通して思うこと、AG世代にオススメしたい話題などをお届けします。
ちょっとくたびれた朝でも、落ち込んでいる時でも、メイクを施し、お気に入りの服に袖を通せば、シャキッとした気分になれます。おしゃれは元気を与えてくれる魔法のようなもの。「明日はどの服を着ていこうかな」と考えることが、未来への明るい扉を開いてくれる気がします。
デイジーマークの化粧品ラインで有名な英国のデザイナー、マリー・クワントの生き方を知れば、きっと勇気が湧いてきます。東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「マリー・クワント展」では、1960年代のミニスカートブームに火をつけたクワントの最盛期のファッションや足跡をたどれます。「ウーマンリブを待っている暇はなかった」と言ったクワントは、時代を切り開いていきました。
クワントは、1930年にロンドン近郊で生まれました。服、下着、化粧品、インテリアなどライフスタイル全般に至るまで幅広くデザインを手がけました。現在も92歳でなお健在です。
1955年にロンドンのキングス・ロードに若者向けブティック「バザー」を開いたのがブレークのきっかけです。自身が着たいと思う服を次々にデザインして売り出し、60年代のストリート発若者文化「スウィンギング・ロンドン」の立役者の一人になりました。
カラフルなレインケープ(右奥)など、展示でマリー・クワントの色彩豊かなファッションを楽しめる
クワントは、女学生が着ていたピナフォア(エプロンドレス)をもとに、スカートの丈をひざ上まで上げて大人向けのデザインにしたのです。ミニスカートは、走ったり踊ったり動きやすく躍動的です。
1965年にはフランスのファッションデザイナー、アンドレ・クレージュも「ミニルック」としてミニスカートを発表しました。ミニは、またたく間に若い女性たちの間で爆発的な人気になり、67年に英国のモデル、ツイッギーが来日したことで、日本でも大ブームになりました。
本展の担当学芸員の岡田由里さんは、クワントについて「時代を読むのがうまい。時代の先を行きすぎるとついていけないのですが、ほんの一歩先、半歩先という感覚が広く受け入れられた」と分析します。
マリー・クワント社元取締役のヘザー・ティルベリー・フィリップスさん(80)は、当時のミニスカートブームについて「選択肢が限られ、お母さんと同じ格好をするしかなかった女の子たちは、新しいデザインの服を求めていました。短いスカートは女の子たちに自由を与えてくれ、もっともっと丈を短くと求めたのです」と時代の空気を語ります。
クワントは、1966年の大英帝国勲章(OBE)の授与式には、自らのブランドのジャージー素材のスポーティーなミニワンピースで臨みました。「宮殿には場違いな衣裳(いしょう)」と新聞に書かれたほど、世間に衝撃を与えました。
ジャージー素材のスポーティーなミニワンピースの展示前でポーズを取るマリー・クワント社元取締役のヘザー・ティルベリー・フィリップスさん(右)と、ブランドのモデルを務めたウルリカ・ヘインズさん
展覧会の内覧会にはフィリップスさんと、1970年代にブランドのモデルを務めたウルリカ・ヘインズさん(67)が来日しました。ヘインズさんは、黒のミニワンピースにタイツというコーディネート。すらりとした美脚も健在です。「64年当時の服なの。着やすくて全く問題ないわ」と胸を張ります。2人は展示のミニワンピースの前で笑顔を見せ、ポーズもとってくれました。
展示会場で流れる映像で「自分らしく生きる人や若者のために私は服を作りたかったんです」とクワントは言います。「生きること、女性であること、セクシーであること、人に好かれることを楽しむ女性は、今流行(はや)りの服を着たいはずです。それには年齢も何も関係ないと思います」
伝統を打ち破って革新を巻き起こしたクワントですが、いったい素顔はどんな女性だったのでしょうか?
フィリップスさんは「引っ込み思案で内気」と言います。米国に行った時、空港で大勢のカメラマンが待機しているのを知り、飛行機のトイレに隠れてしまったこともあったそうです。
人前で話す時には緊張していましたが、夫でビジネスパートナーのアレキサンダー・プランケット・グリーンが助けてくれると、リラックスして楽しく話せるようになったといいます。アレキサンダーは、ウィットにとんだ面白い商品の名前を考えるのも得意で、ブランドの成功を支えました。まさに、時代の先端をいくカップルでした。
マリー・クワントが大英帝国勲章(OBE)授与式で着用したジャージー素材のミニワンピース(手前)。奥の3点もジャージー素材で作られたミニワンピース
熱狂的なミニスカートブームは去り、今は、ミニもロングもマキシもパンツも、思い思いの丈の服に身を包んだ女性たちが街を闊歩(かっぽ)しています。自分に似合う、いろいろな「丈」を選べるうれしさを、自由を、かみしめながら渋谷の街を歩きました。
-
◆「マリー・クワント展」(朝日新聞社など主催)
1月29日(日)まで、東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアム。
午前10時~午後6時、毎週金曜、土曜は午後9時まで。いずれも入館は閉館30分前まで。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)から来日する1950~70年代にかけて生み出した約100点の衣服を中心に、化粧品や小物、写真資料、映像などを展示。
一般1700円など。オンラインによる事前予約が可能。予約なしでも入場できますが、混雑時はお待ちいただく可能性があります。
展覧会公式サイト https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_maryquant/
取材&文&写真=朝日新聞社 山根由起子
写真はいずれも東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで撮影
- 山根 由起子
- 朝日新聞記者として佐賀、甲府支局を経て、文化部などで演劇や本、アート系の取材を担当。現在は企画事業本部企画推進部の企画委員。
「アートと演劇をこよなく愛しています」
山根由起子さんの「AGサポーターコラム」バックナンバーです。
>>かなは「引き算の美」、リズミカルに筆運ぶ 「現代書道二十人展」に出品、土橋靖子さん
>>こびず甘えず、自分らしく生きる潔さ イプセン名作「人形の家」を音楽劇に
- 記事のご感想や、Aging Gracefully プロジェクトへのお問い合わせなどは、下記アドレス宛てにメールでお寄せください。
Aging Gracefullyプロジェクト事務局:agproject@asahi.com